わたしは学校が嫌い。
青春とかつまらないし、どうでもいい。
「おい、七瀬!」
先生がわたしを呼ぶ声が教室内に響く。
ゆっくりと視線を前に向けると、教壇の前から険しい表情でわたしを睨んでいる先生と目が合う。
「お前、話を聞いているのか?」
わたしが何も言わないのを肯定と受け取ったのか、先生は続けた。
「板書は写してるんだろうな?」
「写してません」
高圧的な口調。教師ってどうしてこんな偉そうなんだろう。少しわたし達より早く生まれてきただけなのに。
興味が無さそうに答えると先生の顔がさらに険しくなる。
「ふざけているのか?!大人を馬鹿にするのもたいがいにしろ!」
そこで授業終了の鐘がなった。
先生はしぶしぶと言った感じで教科書を思い切り閉じ、教室から出ていった。
号令などをかけなかったのはそれだけ苛々していたからだろう。
クラスメイトは横目で、あるいは小さく振り返って、こちらの様子を伺っている。
なんだか居心地が悪くなってわたしは俯いたまますたすたと歩き出した。
クラスメイト達は唖然とした顔で見ていた。それから、周囲の子達と何かを言い合っている。
普段はわたしのことなんか気にも止めないくせに、こういうときだけ興味津々なの、笑える。

青空の下、スマホと財布だけ持って制服のまま川の側を歩く。
「さて、どうしようかな」
なんとなく苛々して6時間目の授業が終わってから学校を抜け出した。
残りは帰りのHRだけだから親に連絡がいくことは無い。
草むらの上に腰を下ろしてスマホを取り出す。暇つぶしにゲームでも適当にやってHRが終わったくらいの時間にさっさと帰ろう。
「あれ、同じ学校の制服だ。こんなところで何してるの?」
わたしの気持ちとは正反対の明るい声が降ってきた。
突然現れた影に目をやる。
視界に入ってきたのは陽射しを背に受けて佇み、わたしの顔を覗き込んでくる人影。
逆光で顔が見えないけど、声や背格好からすると、同い年くらいの男の子。
その子は何も言わないわたしの横に座った。
同じ学校の制服といいつつも、彼の着ていた服は制服なんかじゃなくてただのグレーのパーカー。
「まだHRのはずだけど?」
いつぶりだろう。自分から会話をしたのは。ましてや同い年くらいの男の子。
「それは君もでしょ」
「わたしに関わらないほうがいいんじゃない?」
彼は一瞬ぽかんとした顔をしてから、何が面白かったのか、吹き出した。
「あはっ、そうかも」
しばらくの間、お互い何も言わず川の向こう側を見つめていた。それが何となく、わたしにとっては心地の良いものだと思った。こんな気持ちは久々だ。
「ぼくは黒崎優。中2だよ」
「…七瀬和泉。中2」
「やっぱ同い年だったんだ!」
黒崎はわたしの前に立って手を差し出してきた。
関わるなと言った1人にこんな風にグイグイこられたのははじめてかもしれない。 
わたしが驚いで動けないでいると黒崎がわたしの腕を無理矢理引っ張って立たせた。
「よろしくね、和泉!」
「まぁ、うん」
「めっちゃ渋々じゃん!」
「実際そうでしょ?」
この数分間でわかる。黒崎とわたしは正反対だ。
明るく、人懐っこくて、よく笑う黒崎、暗くて、無愛想で、人間嫌いなわたし。違いは一目瞭然だ。
「黒崎みたいな性格なら友達くらいできるでしょ?なんで…」
「ぼくさぁ、学校行けてないんだよね」
わたしの質問に被せるように黒崎はそう言った。
中々衝撃的だ。不登校と言うやつだろうか。
流星症候群(りゅうせいしょうこうぐん)って、知らないか。奇病なんだって。星が降る頃に死ぬみたい。それよりも前に心臓発作とかで突然死しちゃうかもしれないらしいけど」
細かく聞くと流星症候群とは、流星群が降る頃から少しずつ身体に異変が起きるようになると言う。例えば、身体から色が抜け落ちて肌も髪も真っ白になったり、臓器が理由も無く突然損傷し機能しなく無ったり、これまでこの奇病にかかってしまった人は両手で数えられるほどに少なかったけれど、その内の数名は最後に何とか一命を取りとめたらしい。
その、症候群にかかってしまって命を落としてしまう人と何とか生きて帰ることの出来た人の違いは、”幸せになるか“だと言う。
どこのファンタジー恋愛物語だと思ったが本当にあるらしい。治療法があるのなら黒崎もそうすればいいのに。こんな性格の黒崎なら彼女の1人や2人いるだろう。
さっきと同じような笑顔だけど、さっきみたいに心からの笑顔で無い気がした。なんで、なんでこんな辛い状況で笑えるのか。わたしには分からない。