――キィンッ……! カンッ! ……キィンッ! キンッ……!

 やっと私が自分の足を引きずりながら歩いて庭園に着く頃には、エドガーお兄様とルーファスがお互いの刃を幾度も斬り結んでいるところでした。

 エドガーお兄様はシュヴァリエ王国騎士団の優秀な騎士で、次期騎士団長とも言われる猛者なのです。
 ルーファスがかなりの手練れだということは分かっていても、私は二人が心配で気が気ではありませんでした。

「エドガーは幼い頃からエレノアのことを本当に可愛がっていたからな。自分が知らないうちに可愛い妹をルーファスに取られたような気がして、どうにも寂しいんだろう」
「でも、心配なのです。二人とも私にとって大切な人なんですもの」

 隣に立つディーンお兄様と一緒に、誰にも止められない二人の決闘を見守ります。

 ――ガキィン……ッ!

 逞しい体つきのエドガーお兄様はやはり力が強いようで、細身のルーファスは度々力で押し負けそうになっているようです。

「おら! どうした? そろそろスタミナ不足で集中力が途切れてきてるんじゃないのか?」

 斬りつけながらもエドガーお兄様はルーファスに檄を飛ばしています。

「ちゃんとしないとぶった斬るぞ!」

 一瞬の力負けか、ルーファスの頬に一筋の赤い線が走りました。

 それを見て思わず一歩踏み出したところで、右足の痛みが急に駆け上ってくるように鋭く走り、その場でたたらを踏んでしまったのです。
 思わず二人から目を逸らした瞬間に、エドガーお兄様の落雷のような大きな声が響き渡りました。

「俺の勝ちだな!」

 どうやら勝負がついたようで、エドガーお兄様の剣先はルーファスの喉元に突きつけられています。

「ルーファス!」

 私はすぐにその場からルーファスの元へと駆け寄ろうとしましたが、ディーンお兄様がサッと私を横抱きにしてルーファスとエドガーお兄様の傍まで運んでくださいました。

「もう! 二人ともやめてください! 大きな怪我をするかと思って心配したのですから!」

 ディーンお兄様に抱かれたままで二人に向かって声を掛けました。
 叫びといっても過言ではないほど、私は声を張り上げていたと思います。

 するとルーファスは無言で私とディーンお兄様の方へと近づき、スッと両手を前へと差し出します。

「ディーン、返せ」
「はいはい」

 そうしてディーンお兄様の腕の中からルーファスの腕の中へと移動させられた私は、ルーファスに横抱きにされたまま庭を横切っていくのでした。
 
 先程までの決闘で汗一つ垂らしていないルーファスが、私を抱いているのを忘れているかのように軽い足取りで邸の方へと移動している時、ディーンお兄様がエドガーお兄様に話しているのが聞こえてしまったのです。

「エドガー、残念だがお前の負けだよ」
「なっ⁉︎ 何故だ?」
「ルーファスはエレノアが庭に来た途端、集中力が途切れただろ。足の悪いエレノアが転ばないかと、目を配りながらお前と戦っていたんだよ」
「そんな……まさか」
「お前が最後に剣を突きつけた瞬間、エレノアがほんの少しよろけたんだ。ルーファスはエレノアが転んで怪我をするんじゃないかと思って、こちらにほんの一瞬視線を向けたんだ」
「……そんな……」

 あぁ、そうだったのね。

 大切な宝物を運ぶかのように私を横抱きにして無言で歩くルーファスを見上げると、視線は前を向いたままで決してこちらを見ようとはしません。
 でも、思った通り頬を朱に染めているのです。
 
「ルーファス、愛しているわ」

 胸が締め付けられるような、きゅんと苦しいようなこの気持ちが、紛れもなく愛なのだと確信いたしました。
 ですから私は、愛しいルーファスに伝えずにはいられなかったのです。