「ルーファス」
「悪かったな。お前にこれ以上アイツの汚い戯言を聞かせたくなかった。お前はアイツを殺すことを望んでなかっただろうが。許してくれ」

 眉を顰め、苦しそうな表情をしたルーファスは、じっと私を見つめて謝るのでした。

「もういいの。この人の言葉は私を何度も……何度も何度も殺したわ。幼い頃のジョシュア様はもう居なくなってしまわれていた。この人は……私の知らない方よ」

 震える声でそう告げて、瞬きをする度に生温い涙が頬へと零れ落ちました。
 もう牢の中のジョシュア様は息絶えてらっしゃいます。

「おい、ルーファス。殺すならもっと早くやっておけ。いい加減私の方が我慢の限界に達するところだったぞ」
「すまん。コイツを殺すことをエレノアは望んでなかったから」

 目の前でルーファスとディーンお兄様がいやに親しげに話すところを見て、私は先程まで泉のように湧き出ていた涙もすっかり引っ込んでしまいました。
 訳も分からず、ただ気安く言葉を交わす二人を見つめていたのです。

「どういうことですの?」

 至極当然とも言える私の問いに、どちらが答えるのかと二人を交互に見つめました。
 けれどもルーファスは銀髪をガシガシと掻いて明後日の方向を向いておりますし、ディーンお兄様は気まずげな表情で顎を掻いておられます。

「説明してくださいますよね?」

 私の言葉に多少の尖りを帯びていたのも、仕方がないことです。




 ジョシュア様のご遺体はそっと運び出され、秘密裏に公爵様の元へと送られました。
 ことの顛末を聞いた陛下はとても悲しそうにされていましたが、私はそんな陛下に対して不思議と何も感じませんでした。
 
 お気の毒とも、腹が立つとも。

 無理をしてしまった私の足が徐々に痛んできたこともあり、お父様のひと声でディーンお兄様とルーファスも揃って侯爵家のサロンへと集まりました。

 興奮状態のエドガーお兄様は、私達のお話が終わるまでお母様が別室で抑えてらっしゃるそうです。
 流石のエドガーお兄様も、お母様には無体を働けませんから。

「どういうことかお聞きしても? ディーンお兄様とルーファスは兼ねてからのお知り合いでしたの?」

 ディーンお兄様、ルーファス、そして何故かお父様までもが目配せし、難しいお顔でグググと唸っているのです。
 そんなにも話し辛いことなのでしょうか。

「エレノア、絶対に私を怒らないでくれるかな?」
「あらお父様、それは事情を聞いてからでないと分かりませんわ」

 いつもは威厳のあるお顔をしているお父様がシュンとなさっているのを尻目に、私はルーファスに説明を求めました。

 そしてひどくバツの悪そうなルーファスが語ったのは、私にとってはとても信じられないような内容で、途中何度もお父様とディーンお兄様、そしてルーファスを順に睨みつけたのです。