今日も朝からルーファスは何処かへと出掛けて行きました。
留守番の私は杖を必要としながらも、がっちり固定されていた石膏が外れたのです。
随分と体重が掛けられるようになった足をさすりながら、私はぼんやりと小屋の外へ目をやっていました。
――ガサガサッ……！
小屋の近くの茂みが小刻みに動いた気がして、目を凝らしてそちらを見つめていると、なんとそこから飛び出してきたのは久方ぶりに見たエドガーお兄様だったのです。
「エドガーお兄様！」
考える間もなくその場で立ち上がり、私は急いで戸口へ出ようとしました。けれどもまだ本調子でないお陰でバランスを崩し、したたかに床へと身体を打ちつけ転倒してしまったのです。
「エレノア！」
私が身体に痛みを感じると同時に、エドガーお兄様は開いた扉から小屋の中へと入ってきました。
そして床に転がってすぐには動けない私の方へと駆け寄り、そっと抱き起こしてくれたのです。
「エレノア！ 大丈夫か？ 怪我をしたのか？」
「エドガーお兄様……転んだだけですわ」
「ああ、こんなに痩せ細って……」
久方ぶりに私の顔を見るなり、相変わらず凛々しい体つきのお兄様はポロポロと涙を溢しながら頬に触れました。
ゴツゴツとした男らしい手でそっと私の頬に触れる優しさが、ひどく懐かしく思えたのです。
「心配したんだぞ！ あのボンクラと婚約破棄できたと思ったらお前は帰って来ないし、父上や兄上は俺に何も教えてくれないんだからな。方々探し回って、それでも見つからず我慢の限界だったから、とうとう兄上を締め上げてしまったぞ」
エドガーお兄様……今ディーンお兄様を締め上げたって仰ったの？
ディーンお兄様、大丈夫かしら？
「ああ、良かった。それでもお前に会えたから俺は嬉しいよ」
「お兄様、心配かけてしまってごめんなさい」
「いいんだ。お前が元気ならばそれで。さあ、家に帰ろう」
「ちょっと待って！ お兄様、私……お話しなければならないことがあるの」
そう言ったところで、エドガーお兄様を呼ぶ声がどこからか聞こえてきたのです。
「エドガー！ おい！ お前というやつは！」
そう言いながら無遠慮に扉から入ってきたのは珍しく動揺した様子のディーンお兄様でした。
「ディーンお兄様？」
「エレノア、すまない。エドガーが暴走したらもはや誰も止められなかった。この筋肉馬鹿め」
「兄上が俺に隠し事をなさるからだろう！ エレノアがいなくなって俺がどんなに心配して、そして寂しかったことか！」
「本当にお前は……はぁ……。エレノア、大丈夫なのか？」
エドガーお兄様へ呆れたようなお顔をしながらも、私に優しい眼差しを向けてくださるディーンお兄様。
「少しだけ足を痛めてしまったのだけれど、大丈夫よ」
「なに？ 足を⁉︎ それは早く医者に見せなければ！ 兄上、それでは俺は先にエレノアを連れて帰りますから！」
「え⁉︎ エドガーお兄様！ ちょっとお待ちになって！」
エドガーお兄様は私の言葉に聞き耳を持たず、そのまま横抱きにして走り出したのです。
私を抱えていることを感じさせないくらい、ものすごい速さで森を走り抜けるエドガーお兄様。まるで熊の背中に乗っているようです。
急に激しく動いたからか、そのうち目の前がスウッと暗くなってきて、私は意識を失ってしまったのでした。
「ルーファス……」
だめ、ルーファスに伝えないと。
私が急にいなくなったら……心配するわ。
