学院の玄関からアルウィン侯爵家の馬車が停めてあるところまで歩く途中、今日はお休みだと思っていたジョシュア様が侯爵家の馬車近くで立っていたのです。

「ジョシュア様? 今日はお休みしていらっしゃったのでは?」
「そんなことはどうでも良い。こっちへ来い!」

 ジョシュア様は馬車停めから少し離れた学院所有の林の中へと、私の手を引きながらどんどんと歩いて行くのです。

「ジョシュア様! 手が痛いです。少し緩めていただけませんか?」
「煩い! 黙ってついて来い!」

 ここまで激しい剣幕のジョシュア様は初めてでしたので、私は少し怖くなって黙って従うことにいたしました。

 林の中を少し進んで、ジョシュア様は周りに人気のないことを確かめると私の手を乱暴に離しました。

「どういうつもりだ? 国王陛下に僕との婚約破棄を願っただと?」
「婚約破棄ですか? 私は何も存じません」
「知らないなどと、そのような嘘が通用するか! それでは何故僕は今日国王陛下から呼び出されて、お前を蔑ろにしていると叱責を受けなければならなかったんだ? 挙句に侯爵家の方から婚約破棄を望んでいると、陛下の口から直接お聞きしたんだ!」

 もしかしてお父様が陛下に何かおっしゃったのかしら。
 それにしてもジョシュア様がここまで取り乱すことなどなかったのに、よほど陛下に叱責されたことが堪えたようね。

「本当に私は存じませんでした」
「お前、僕と婚約破棄するつもりなのか? お前のような可愛げもなくつまらない女を娶ってやろうとしている僕を、よくもそちらから婚約破棄などという不名誉で傷つけようとできるものだな! 恥を知れ!」

 元々ドロシー嬢とご結婚されたいが為に私のことがお邪魔だったのではありませんか。

 そう、殺したいほどに。

「陛下は国内の安定のため、お前のような女と僕との婚姻を望まれた。きっと陛下も本意ではなかっただろうが、仕方なくそうされたんだ。どうせお前の馬鹿な父親(宰相)が僕の生まれを利用しようと、娘との婚姻を唆したんだろう。そうでなければ僕のことをとても大切に思ってらっしゃる陛下が、お前のような女との婚姻など望むわけもない!」

 馬鹿な父親ですって? 私のお父様のことを貶すのはやめて。それだけは……決して許せないわ。

「お父様のことをそのようにおっしゃるのはおやめください」
「はっ! お前の父親などただの臣下ではないか。素晴らしい陛下の足元にも及ばんくせに、偉そうにしやがって! その娘のお前も僕のことを馬鹿にして! ああ! 気分が悪い!」

 私は今までずっとジョシュア様を引き立てるようにと、良い婚約者同士に見えるようにと努めてきました。
 台無しにしたのは貴方の方ではないですか。

「私は今までジョシュア様の良い婚約者であろうと、精一杯努力してまいりましたわ」
「どこがだ? 先日の夜会では他の男たちへ愛想を振り撒いて、僕よりも褒め称えられて有頂天になっていただろう! そんなはしたないお前からこの僕が婚約破棄されるなどと、恥もいいところだ! くそっ! 許さんぞ!」

 この方はやはりご自分のことだけなのね。
 
 ご自分の気に入らないことがあれば怒鳴り散らして癇癪を起こして、まるで子どもだわ。