「本店のある商店街に新しく出来てたから」
そう言って川岸から手渡されたのは白色の箱。お洒落な筆記体で書かれた店名はよく読めなかったけれど、中からほんのり漂ってくるクリームの甘い香りに、穂香は瞳を輝かせる。
「わー、ありがとうございます! 食後にいただいてもいいですか?」
「田村が好きなのがあるといいんだけど……」
「甘い物は大抵好きなので大丈夫です!」
小さな個人店が並ぶ商店街の一角に、新しくケーキ屋が出来たのだという。本店を訪問する際に見つけて、ショップへの差し入れと一緒に穂香の分も買ってきてくれたらしい。箱の中を覗いてみると、フルーツタルトと苺ショート、エクレアが一つずつ入っていた。どれも見た目から可愛くて美味しそうだ。
「オーナーはどれが好きですか?」
「いや、俺は甘い物はちょっと……」
一緒に食べるつもりなのかと思っていたけれど、全て穂香のだと言ってから川岸は少し照れたように目を逸らした。元カレの栄悟もスイーツは苦手だったけれど、どこかへ立ち寄ってもお土産なんてくれたことはない。それどころか甘い匂いすると言ってクレープ屋のキッチンカーの前を通るのでさえ嫌がって舌打ちまでしていた。
——ま、単なる本店への差し入れのついでなんだろうけど……
それでも一瞬でも自分のことを頭に思い描いてくれたことがただ嬉しい。穂香が甘い物が好きなのは飲みに行った時に弥生と一緒にデザートメニューで大騒ぎしてたのを覚えてくれていたのかもしれない。また一歩、川岸から鬼上司の印象が薄れていく。どうして今まであんなに彼のことを怖がっていたのか、不思議で仕方ない。
食後に穂香がタルトを食べている向かいで、川岸は胡瓜の浅漬けを肴に缶ビールで晩酌していた。ケーキのお礼にと急いで胡瓜を漬けて用意した。それをポリポリ音を立てて味わっているオーナーにはまたちょっと親近感が湧いてくる。これまで彼へ抱いていたイメージでは漬物なんて到底想像できなかったから。
そう言って川岸から手渡されたのは白色の箱。お洒落な筆記体で書かれた店名はよく読めなかったけれど、中からほんのり漂ってくるクリームの甘い香りに、穂香は瞳を輝かせる。
「わー、ありがとうございます! 食後にいただいてもいいですか?」
「田村が好きなのがあるといいんだけど……」
「甘い物は大抵好きなので大丈夫です!」
小さな個人店が並ぶ商店街の一角に、新しくケーキ屋が出来たのだという。本店を訪問する際に見つけて、ショップへの差し入れと一緒に穂香の分も買ってきてくれたらしい。箱の中を覗いてみると、フルーツタルトと苺ショート、エクレアが一つずつ入っていた。どれも見た目から可愛くて美味しそうだ。
「オーナーはどれが好きですか?」
「いや、俺は甘い物はちょっと……」
一緒に食べるつもりなのかと思っていたけれど、全て穂香のだと言ってから川岸は少し照れたように目を逸らした。元カレの栄悟もスイーツは苦手だったけれど、どこかへ立ち寄ってもお土産なんてくれたことはない。それどころか甘い匂いすると言ってクレープ屋のキッチンカーの前を通るのでさえ嫌がって舌打ちまでしていた。
——ま、単なる本店への差し入れのついでなんだろうけど……
それでも一瞬でも自分のことを頭に思い描いてくれたことがただ嬉しい。穂香が甘い物が好きなのは飲みに行った時に弥生と一緒にデザートメニューで大騒ぎしてたのを覚えてくれていたのかもしれない。また一歩、川岸から鬼上司の印象が薄れていく。どうして今まであんなに彼のことを怖がっていたのか、不思議で仕方ない。
食後に穂香がタルトを食べている向かいで、川岸は胡瓜の浅漬けを肴に缶ビールで晩酌していた。ケーキのお礼にと急いで胡瓜を漬けて用意した。それをポリポリ音を立てて味わっているオーナーにはまたちょっと親近感が湧いてくる。これまで彼へ抱いていたイメージでは漬物なんて到底想像できなかったから。


