「春馬、これって」
「あぁ、由紀の空間を広く見せる方法のおかげで高評価だったよ」
 特に社長がすごく気に入ってくれてと嬉しそうに話す春馬に、由紀はデザイン画を返した。

『これ取り入れてもいい?』
 確かに春馬にそう聞かれた気がするけれど、まさか完全にコピーされるだなんて。
 あれは金沢出張へ行った時、駅前のねじられた門の柱を見て考え出した私のオリジナルだった。
 いつか自分がコンペに参加できるようになったら使いたいと思っていた案だったのに。

「ホントに由紀のおかげだよ。ありがとう」
「あ、……うん」
 春馬がコンペで優秀賞になったのは嬉しいけれど、なんだか素直に喜べないのは自分の心が狭いのだろうか?

「実はあの作品を会社が社外コンペに出したんだ。それで模型を造らないといけないんだけど、手伝ってくれないかな?」
「えっ?」
「由紀がデザインしてくれた部分をどうやって立体で作ったらいいのかわからなくて」
 頼むよとお願いポーズをする春馬に、由紀は戸惑った。

 自分で作れない、想像できないものをデザインとして出しちゃうなんて、そんなのアリなの?
 理想を追い求めすぎて実際に作ったら強度が足りなくなるからボツだという経験はあるけれど、模型も造れないようなデザインじゃダメじゃないの?

「少しだけでいいんだ。造り方を教えてくれないかな」
「……造り方、なら」
 社長も専務も期待しているコンペなんだと必死で頼んでくる春馬を見た由紀は渋々頷いた。
 
「ありがと、由紀!」
 抱きしめられてキスをされてもなんだか嬉しくない。
 モヤモヤした気持ちを抱えた由紀は、なかなか寝付くことができなかった。

 翌日から由紀は夜に模型造りを手伝うことになった。
 春馬は業務時間中に模型を造っているのに、由紀は仕事が終わってからマンションで手伝わなくてはならない。
 それも由紀がモヤモヤする原因の一つだった。

『ごめん、社長と食事になった』
『今日は先輩から誘いが』
『会議で遅くなる』

 春馬はだんだん帰りが遅くなり、ほぼ毎日終電で帰ってくるようになった。