「リッカ? 建築家の?」
 ざわつく会場内。
 でもおそらく一番動揺しているのは私だ。
 律がリッカだったなんて、どうして教えてくれなかったのだろうか?
 私は律の彼女のつもりだったのに。
 
「先ほどのプレゼンでどちらが盗作したか明らかなのに、証拠と証人までいても認めようとしない弊社社員が大変失礼した」
 主催会社の会長が由紀に向かって頭を下げると、主催者たちは急いで立ち上がり、彼らも一斉に由紀に頭を下げた。

「あなたが作品に込めた思いはちゃんとプレゼンで伝わりました。欲を言えば、一番アピールしたい部分を冒頭で説明すると良いかもしれませんな」
「は、はい。アドバイスありがとうございます」
 由紀も慌てて立ち上がり、会長に深々とお辞儀をする。

「タカナシアーバンデザイン社さん、おたくは大手だと思っておりましたが盗作とは非常に残念です」
「盗作は向こうよ! 春馬の方が実績があるのよ!」
 ここまで証拠があっても認めようとしない美香に会長は溜息をついた。

「由紀! ごめん、俺が悪かった! だからさ、俺たちもう一回やり直さないか?」
 急いで由紀に駆け寄り、抱きしめそうな勢いで手を伸ばす春馬の腕を、律が掴んで止める。
 
「何の真似だ」
「これは俺と由紀の問題だ、あんたは関係ない。なぁ、由紀。やり直そう。このデザインもさ、二人で考えたことにしてくれれば盗作にならないし、あ! 駅で会っただろ、だから共同作品だって言っても大丈夫じゃないかな?」
 律に掴まれたまま必死に訴えかける春馬の自分勝手な言葉に、由紀は耳を疑った。
 
「リッカに考えてもらったんだろ? 由紀じゃ無理だもんな」
 俺と共同にすればリッカが描いたことがバレないよと笑う春馬の嫌な笑顔に、由紀はグッと唇を噛み締める。

「最低だな」
 律は春馬の腕を捻り上げ、壁に押し付けた。