あれから私は昼夜を問わずラングレー商会で扱う新商品について考えておりましたの。

 そしていくつか案ができる度にラングレー会長自らがお話を聞いてくださって、そして話を詰めてから製作へと進んでいきましたわ。

「風邪や大きなお声を出したりして喉が痛い時、今は蜂蜜を舐めるということが主流ですけれど、喉の調子を良くするキャンディーはいかがでしょう? 蜂蜜だけでなく、ハーブを練り込んで作るのですわ」
「なるほど、使うとすればどのようなハーブが宜しいのでしょうか?」
「例えば、タイム、リコリスミント、フキタンポポ、アカニレ、ヒソップ、エルダーフラワーなどですわ」

 シルバーグレーの切れ長の瞳は普段真剣なお顔をされている時には冷淡なイメージですが、今私に向けてらっしゃるとても優しい眼差しは一体何なのでしょう?

 フェルナンド様に依頼されて私を籠絡しようとしているから、嘘でもこのようなお顔をされるのかしら。
 とても心臓が持ちそうにありませんわ。

「なるほど。さすがヴィオレット嬢ですね。それに、以前から思っていたのですがハーブにもお詳しいんですね。私の商会からも度々ハーブティーを取り寄せてくださっていますし、お好きなんですね」
「はい。ハーブは幼い頃から興味があって……。特に気持ちが落ち着いたり、安眠効果のあるものなどを好んで使用していますの」

 私の話を聞いてラングレー会長は眉を下げて、とても切なそうなお顔をされました。
 私がフェルナンド様とのことで悩んでいると思われたのかも知れませんね。

「ヴィオレット嬢はどのハーブが一番お好きですか?」

 先ほどまでとても切なそうなお顔をしていたと思ったら、また優しい眼差しで私を見つめてラングレー会長が尋ねられました。

「私は幼い頃からラベンダーが一番好きですの。ハーブティーはもちろんのこと、私のお部屋にもラベンダーのポプリやリースを飾っておりますし、入浴の際にはハーブバスにしていますのよ」
「それはラベンダーに何か思い入れがあるのですか?」

 ラベンダーが好きになったきっかけは、幼い頃にまだお元気だったお母様に連れられてフォスティーヌ夫人のご実家へ訪れた時でしたわ。

 ご領地はラベンダー畑が有名で、そこかしこが爽やかな香りの紫の絨毯のように見られる場所。
 邸内のお庭にもラベンダーを初めたくさんのハーブが植えられていたのを思い出します。

「ええ。幼い頃にラングレー会長もよくご存知の、あのフォスティーヌ公爵夫人のご実家の領地でよく拝見していたのですわ。母と夫人は親しくしておりましたので私も一緒に邸宅へ伺っておりました。大人の話につまらなくなった私がお庭に出ると、それはそれは美しい紫の絨毯が広がっていて、とても素敵だと子ども心ながらに思ったものです」

 あの頃はお母様もお元気だったから、まだご結婚前だったフォスティーヌ夫人や、時々は辺境伯様も招いてよくお茶会をしていたわ。

 私は大人たちの会話にはついていけずに、つまらないからと無理を言ってみたりして……。
 そんな時はいつもフォスティーヌ夫人が遊び相手を連れてきてくれたのです。

 綺麗な黒髪が印象的な優しくて大好きなお友達でしたのに、いつの間にか会えなくなってしまったんですわ。

「そうですか。私もハーブではラベンダーが一番好きです。ヴィオレット嬢と同じですね」

 ああもう、いちいち眩しい笑顔で口説くような言葉を吐き出すその整ったお口は一体どうしたら閉じることができるのかしら。