「お兄ちゃま、今日は何をして遊んでくださるの?」
「あちらの木にあるウサギの巣穴に、子ウサギがいるんですよ。見に行きませんか? お嬢様」
「ウサギ? ぜひ見たいわ!」

 可愛らしいヴィオレットお嬢様は、ブルーの瞳をキラキラと輝かせて僕の誘いに元気よく返事をする。

 ヴィオレットお嬢様がいらっしゃる時には、母さんがあらかじめ僕に伝えてくれるんだ。
 
 そんな時、僕はいつも何をして遊んだらあの小さな女の子が喜ぶか考えていた。

「さあヴィオレットお嬢様、こちらですよ。小さなウサギがいるでしょう?」
「わぁ! 本当に可愛いわ。小さくてフワフワしてるのね」

 巣穴のウサギは子ウサギばかりで、親ウサギは餌を探しに出ているのか見当たらない。

「ねえ、お兄ちゃま。子ウサギを抱っこしたいの。いいでしょう?」
「それはダメです」
「ええー。どうしてなの?」
「野生の動物はいくら可愛くても見るだけで、そっとしておいてあげないといけないんです」

 ヴィオレットお嬢様はどこか拗ねたような表情で、両の瞳を潤ませている。
 僕からすると、まるでお嬢様は可愛らしいウサギのようだ。いや、ウサギよりも可愛いと思う。

「フワフワして可愛らしいのに、触れないなんて寂しいわ」

 この小さな女の子は僕にとって妹のようであり、時々胸がドキドキさせられるような特別な存在で、思わず何でも言うことを聞いてあげたくなってしまう。

「あ! ヴィオレットお嬢様、あちらにフワフワがたくさんありますよ」

 少し離れた場所に、タンポポの綿毛がたくさん咲いていた。
 まるでウサギのシッポのようなそれをヴィオレットお嬢様はすぐに気に入って、笑いながらたくさん空に飛ばしている。

「お兄ちゃま、見て! あんなに遠くまで飛んだわ!」
「そうですね。ヴィオレットお嬢様は綿毛を飛ばすのが上手ですね」

 ちょっとしたことで喜びを表すこの女の子が、僕のことを呼ぶたびに嬉しくなる。
 もっともっと呼んでほしい。頼りにしてほしい。

「この綿毛を飛ばしていると、お誕生日のケーキのロウソクを消す時を思い出したわ」
「ケーキの……ロウソク……ですか?」

 僕はケーキなんて高価な物はあまり食べたことがないけれど、きっとこのお嬢様はお誕生日に美味しいケーキでお祝いしてもらったことが、とても楽しかったのだろう。

「ケーキのロウソクを吹き消す時にね、お願いごとをすると叶うのですって」

 そう言って新しい綿毛を摘んだお嬢様が、一生懸命に願い事を口にして、フゥッと綿毛を遠くへ飛ばした。

「お兄ちゃまと、ずうっと一緒に遊べますように」