「アルフォンス、貴方はどのような『加護』を求めますの?」
「『加護』が欲しくて『加護を引き継ぐ者』であるヴィオレットと結婚した訳ではないから、私は『加護を得る者』にならなくても良いのですよ」
「本当に宜しいのですか?」

 今晩は所謂初夜というもので、侍女から磨きに磨き上げられ、全身に香油を撫で付けられ、身体の隅々までピカピカにされ……フォスティーヌ夫人が選んだという心許ない夜着を身につけて、現在天蓋付きの寝台に腰掛けていますの。

 隣にはラフな夜着を身につけた夫、アルフォンス。

「本当に『加護』が欲しくないんですの?」
「はい、私はヴィオレットがいてくれさえすればそれで良いんです。おかげさまで商会の運営は順調ですし、『加護』でどうこうしたい事はありません」

 それでは大変困りますのよ!

「アルフォンス、『加護』は初夜を迎えた処女(おとめ)から、夫となる者へと分け与えられるものなのです。ですから……」

 頬が染まりカーッと熱くなる顔をシーツへと向けて、何とか言葉を紡いだ私を、アルフォンスが急に抱き締めてきたのです!

「なるほど。そういうことならばヴィオレットごと『加護』をいただくしかありませんね。愛しています。可愛らしいお嬢様」

 抱き締められたまま見上げた私は、アルフォンスの美しい銀髪に手をやり、シルバーグレーの瞳と視線を合わせます。

「アルフォンス、愛しています」

 ――とても幸せなその夜、私はアルフォンスへ『加護』を分け与えることができましたのよ。

「アルフォンス、貴方は結局どんな『加護』を願いましたの?」
「知りたいですか?」

 フカフカの寝台の上でシーツに包まれた私は、アルフォンスのサラサラの銀髪に触れながら尋ねました。

「私はヴィオレットがこれからずっと幸せでありますよう、加護を願いました」

 一瞬訳が分からずに令嬢らしからぬ顔を……いえ、もう令嬢ではないのですから、淑女らしからぬ顔をしてしまったのは、致し方ありませんのよ。

 『商会のますますの発展を』とか、『この国の平和と民の幸せを』などと言いそうだと思っていましたのに、まさかの『ヴィオレットがこれからずっと幸せでありますよう』とくるとは思いませんでしたわ!

「そんなこと、加護に頼らなくてもアルフォンスと一緒にいられれば叶うことでしてよ」

 ああ、やはり照れ臭くて高飛車な言葉をかけてしまいましたわ。

「そうですね。それでもこの世に私の願いはそれしかありませんから」

 ああ……貴方はご存知ないかも知れないですけれど、一見冷たい印象を受ける色合いの瞳は、私のことを見つめる時だけ優しく細められるというのが嬉しくて。

 私はそれだけでも十分幸せなのですわ。