――数日後のギラマン伯爵家のパーティーには、私はフェルナンド様の瞳に合わせて緑のドレスを着て行きましたが、婚約者であるフェルナンド様はまさかの赤いスーツをお召しになっていて、二人が並ぶと緑と赤がまるで近隣国が信仰する神さまのお祭りのようでしたわ。

 アッシュブロンドの髪色と薄いブルーの瞳であるわたしのどこに赤色の要素があるのでしょうね。
 赤毛で茶色い瞳をしているのは妹のモニクですわ。

 しばらく社交会では噂になるでしょうが、今更ですわね。


 ――その日はダイニングルームにてお父様とお義母様、そしてモニクと私が晩餐をいただいておりましたら、いつものごとくモニクがお義母様に懇願し始めました。

「お母様、モニクは早く結婚したいです。お姉様はフェルナンド様にすっごく嫌われているくせにまだ婚約破棄してくださらないのよ」
「はぁ……。本当に嫌な性格してる娘だこと。婚約者が妹の方が良いと言っているんですから、早く譲っておしまいなさいな。ブラシュール家の娘であれば別に相手が貴女でなくても良いのですから」

 私はフェルナンド様のことなどこの際はっきり言ってどうでも良いのですが、この婚約は亡きお母様とフェルナンド様の父君であるブルレック辺境伯様の約束事ですから、私自身がいくら嫌だとしてもどうにもなることではありません。

 それに通常結婚は家同士の結びつきの為に行われますが、私とフェルナンド様の婚約に関しては『私』と『ブルレック辺境伯家の者の婚約』でないと意味がないのです。

 この件については二人にお父様から説明をしているはずなのですが、ご存知ないのでしょうか?

 当のお父様はまるで存在が空気のように景色に溶け込んでしまっています。

 本来ならば伯爵家当主であり、我がブラシュール領主のお父様はこの場の誰よりも地位が高いはずなのですが、何故か苛烈なお義母様と娘であるモニクに頭が上がらないのです。

 毎回のことながらその場に留まることに疲れてしまった私は先にダイニングルームを失礼することにしました。

 ギラマン伯爵家のパーティーのことも頭が痛いのですが、先日フェルナンド様がモニクと話していた計画のことを考えているうちにさすがの私も少し堪えたようです。

「別れさせ屋なんて、本当に面倒なことをなさるのね」

 自室に戻り、バルコニーから空を見上げながらつい言葉を溢しました。