「ヴィオレット! ワシの我儘のせいで辛い思いをさせ、すまなかった!」
「辺境伯様、頭を上げてくださいな」

 あれから辺境伯様へとお手紙をしたためて、フェルナンド様との婚約破棄をお伝えいたしました。
 私がお父様にお願いしても、きっとなかったことにされるでしょうから。

 辺境伯様は我が家のドローイングルームで、大きな体躯をカバっと伏せて謝罪を繰り返しておいでです。

「レオナール、もういい加減になさいな。貴方がやるべきことは円滑に婚約破棄の手続きを行い、ヴィオレットの新しい門出を応援してあげることでしょう?」
「うう……ヴィオレットを娘にすることはワシの悲願であったというのに。全く、あの馬鹿息子は!」
「もうそれはいいのよ。貴方も諦めなさい。ヴィオレットは、これから愛するアルフォンスと幸せになるのだから」

 辺境伯様の隣で、ポンポンと肩を叩いて宥めていらっしゃるのはフォスティーヌ夫人。

 お父様は……この錚々たる顔ぶれに、相変わらず置き物のように存在を消してらっしゃるわ。

「ブラシュール伯爵、この度は突然の申し出にも関わらず、私とヴィオレット嬢の婚姻を認めて下さりありがとうございます」

 そんなお父様に、キラキラと煌めく何度見ても目に毒ではないかと心配になるようなお顔のラングレー会長が、お声をかけています。

「……仕方ありますまい。ラングレー会長、ヴィオレットを頼みます」

 思いの外まともな言葉を返されたお父様、お母様の幼馴染であるフォスティーヌ夫人と辺境伯様に説き伏せられて、少しは思うところがあったのかも知れませんわね。

 そして私は貴族をやめて、ラングレー商会アルフォンス会長の補佐として傍で支えていくことになっておりますの。

 元伯爵令嬢でしかない世間知らずな私にきちんと務まるか不安ではありますが、これまでラングレー会長が私の為にしてきてくださったことに比べたら、どんな事でも頑張れる気がいたします。

 ――そんな時、久しぶりの展開ではございますがドローイングルームの扉が勢いよく開いたのですわ。