「ヴィオレット嬢。私の願いを聞き入れていただき、お会いする機会を得られたこと光栄です」

 久々にお会いしたラングレー会長は、ボウアンドスクレープで私にお辞儀をなさって、その優雅な姿に思わず私は目を奪われてしまいました。

 やはりこのお方、目に毒ですわ。

「ご機嫌よう、ラングレー会長。急な訪問をお許しくださいませね」

 私もカーテシーでご挨拶をしてから、すすめられたソファーへと腰掛けましたの。

「早速ですが、フォスティーヌ夫人から全て伺いました。貴方が私のことを陰ながら助けてくださったのですね。おかげでこの度フェルナンド様との婚約を、近々破棄しようと考えておりますわ」

 緊張からか、早口でまくしたてるようになりがちな私の言葉を、ラングレー会長はじっと聞いてらっしゃいました。
 やがて、少し躊躇うようにして重い口を開かれました。

「ヴィオレット嬢、私のことは思い出されましたか?」

 銀色にも灰色にも見える双眸が、不安そうに私を見つめてらっしゃる。

「……フォスティーヌ夫人にお話を伺って、思い出しましたわ。むしろ、今の今まで忘れていたことが自分でも信じられないのです。どうか私の非礼をお許しいただきたく存じます」

 私の瞳には涙の膜が張って、それが溢れないように我慢しているのですけれど、一度瞬きをしたらポロリと零れてその後は次々とドレスに染みをつくっていきました。

「あの頃の貴女は、まだとても幼かった」

 ラングレー会長の銀の糸のような御髪が、首を傾げた動きに合わせてキラキラと煌めいています。

 そして会長は次々と涙を零す私の髪に手を触れ、優しく撫でてくださったのですわ。