本当にこのようなお方が祖国を守る騎士で、大丈夫なのでしょうか?

 辺境伯様も嫡男のローラン様もご立派な方ですのに……どうしてフェルナンド様だけが、このように残念な方なのか不思議でなりませんわ。

「私が愛妾では意味がありませんから、どうかお好きな方のほうを愛妾になさいませ。ただモニクは私の妹ですから、世間的にも避けた方が宜しいかと存じますわ」
「なんだと? やはりお前はどうしても妻の座に収まりたいと言うのだな! どうしてそう強欲なのだ! 妻の座でなければ、豪奢な生活ができないからだろう!」

 あらあら。立ち上がって顔を真っ赤にして震えながら怒ってらっしゃるお姿は、いつものお元気なフェルナンド様に戻られましたわね。

 周りの御令嬢や女性方がフェルナンド様のことを『天使様のように素敵な男性』や、『優しく包んでくれそうな癒しのイケメン』などと持て囃すのが、理解できませけれど。

「大きな声を出すのはおやめください。まだ来客中のようですから、そこまでフェルナンド様のお声が聞こえますわ」
「お前のように自分のことばかり考えて、強欲で可愛げのない女など、妻にしたい訳がない!」

 近くで大声を出すだけならばまだしも、ここはお庭ですから遠くまで声が響いてしまいますし、先日のように手を上げられるようなことがあれば誰に見られるか分かりません。

 人目につきやすく、暴力を振るうことが難しいようにお庭のガゼボにお呼びしたけれど、裏目に出てしまったわ。

「フェルナンド様、とにかく落ち着いてお掛けになってください」
「うるさい! いつもヴィオレット、ヴィオレットと煩く様子を尋ねてきたりして、私よりもお前のことを辺境伯領に必要としているのが、ありありと伝わるのが腹が立つ!」

 フェルナンド様は私に怒っていると同時に、この場にいらっしゃらない辺境伯様への怒りをぶちまけているようです。

 ガゼボのテーブルはティーカップが割れて散乱し、そこに拳を何度もぶつけながら大声で叫んでいるのです。

「騎士として大切なお手を怪我されますから。おやめください」
「騎士として生きていきたいなどと思ったことはなかった! ただ辺境伯領に戻って兄上の補佐をしろと父上に勝手に決められて、仕方なくしていることだ!」
「それでも、拳から血が出ておりますからこれ以上はおやめください」

 少し離れた場に控えていたはずの侍女たちはいつの間にかいなくなっておりますし、誰もフェルナンド様を止めることができずにいるのです。

「離せ!」

 フェルナンド様が手を強く振り払った際、それが身体に当たりバランスを崩した私は、地面に倒れ込んでしまいました。

「フェルナンド様! お気をお鎮めくださいませ!」

 座り込んだまま思わずそう言い放った私の方を見て一瞬目を見開いたフェルナンド様でしたが、次の瞬間には血だらけの手を振り上げているのです。

 叩かれる!

 そう思って私は両の瞼をギュッと瞑り、身体を硬くして衝撃に備えました。