「あのプライドの高いヴィオレットと、できる限り穏便に婚約破棄する為には別れさせ屋に頼むしかないだろう。モニク、もうすでに手配は整っているからあとしばらくの辛抱だ」

 いつまで経ってもお部屋にいらっしゃらない婚約者フェルナンド様を探して、念の為に義妹の部屋の前を通りかかると、何故か室内からフェルナンド様の勇ましげな声が聞こえてきます。

「本当に、お姉様には手を焼きますわ。いくらフェルナンド様が素敵だからってフェルナンド様の愛情はモニクにあるんですから。いくら強情を張っても無駄ですのに」

 いくらモニクが私の義妹とはいえ、男女が扉を閉め切った室内で会うなんて許されることではありません。

 まあ彼らに(わたくし)がそのようなことを話してもすんなりと理解することはできないでしょうが。

 こちら、最近よくあるパターンというやつで義妹に婚約者を寝取られてしまった可哀想な令嬢が、紆余曲折を経てイケメンの皇子様や騎士と引っ付いてザマアするというお話でしたら良かったのですけれど。

 我が国の皇子様方は確かにイケメンではありますが私との年齢差が二回り以上と随分年上ですし、うちの騎士たちはムキムキマッチョな脳筋の方々ばかりで、到底私の好みではありません。

 と、いうことはこのままモニクに婚約者を寝取られた可哀想な私はそのうち実家を追い出されてしまうのでしょうか。

「あら、それは困りますわ」

 それでなくとも、若くしてお母様が病で儚くなってからすぐにお父様が再婚されました。
 モニクは一応連れ子ではありますが、以前からお父様とお義母様との関係はあったようですから半分は血の繋がった姉妹なのではないかと思うのです。

 そしてお義母様もモニクも、私のことを嫌っておいでです。

 元々お母様とお父様は政略結婚でしたから愛情は無かったのかもしれませんが、いくら家政を執り仕切る為に必要だとしても流石にすぐ再婚するなんて思いもよりませんでした。

 お義母様は元々市井の方ですし、詳しいことはお話になりませんので以前どのような生活をしていたかなどは私にも分かりません。

 フェルナンド様が私との結婚をきちんと果たして形だけの家庭を築いてくだされば、あとは愛妾だろうが何だろうが好きになさっても宜しいのに。

 流石に妹が愛妾となると世間的にはあまりよろしくはないですけれども。

「フェルナンド様もモニクも、そしてお父様でさえもこの婚約の意味を忘れてしまったのかしら」

 人間自分の希望に沿わないことに関しては記憶が曖昧になって、いつの間にか自分の都合の良いように解釈するものなのかもしれません。