お願いだから、好きって言って。


「あの、さ……」


 佐藤くんの言葉で、ゆっくりと止まっていた時が動きだす。
 その様子は、どう見ても異常だった。


 いきなり固まって何も喋らなくなったと思うと、まっすぐと私を見つめたまま髪の毛を解きだすなんて……


 一体どうしたんだろう。



 そんな心配をしていると、なんてタイミングが悪いんだろう……チャイムが廊下に鳴り響いた。


 多分授業開始五分前のチャイムだ。



「佐藤くん……どうしたの?」
「いや……なんでもない。教室戻るか」



 そう言って気まずそうに目をそらすと、教室に向かって歩き出した。

 歩き出したその背中に「待って」なんて呼びかけることは私にはできず、ただ追いかけるだけだった。