曹丕の復讐計画に利用された全くお気の毒過ぎるくらいお気の毒な人が夏侯覇…字は仲権とバチバチ火花を飛ばしていた郭淮…字は伯済でした。
郭愛珍《アイヂェン》「24歳になったと言うのに浮いた話の1つや2つや3つくらいないのですか?」
24歳になるというのに依然として…
全く伴侶を得る気配もなく…この頃になると母親である愛珍からほぼ毎日のように小言を言われるのでした…。
郭淮「母上、私とて父上譲りで真面目ではありますがロマンスへの憧れくらいは年相応に持ち合わせています。」
しかし…
西暦223年07月07日、
ロマンス求めて流離《さすら》う男の元にまさかのロマンスが降臨する事になりました。
司馬懿「郭淮、陛下がお呼びだ。」
こうして曹丕の復讐に極めて乗り気ではないものの曹丕の命令であるが故、渋々ながらも郭淮と夏侯覇の上司である司馬懿が郭淮を呼びに屋敷まで迎えに来たのでございます…。
郭愛珍「我が家の馬鹿息子が何か失敗をしてしまいましたか?司馬様、申し訳ありませぬ…」
上司である司馬懿を通り越して
まさかの皇帝からのお呼び出しに…
さすがの郭淮ではなく郭淮の母親である愛珍が代わりに焦り司馬懿へ謝罪をしましたが…
司馬懿「これは決して失敗ではなく
出世の機会となるので謝らずとも…
良いと存ずる…。」
司馬懿は慌てながらペコペコと頭を下げ続ける愛珍に対して意味深な微笑みを浮かべながら出世の機会だと告げたのですがそれは一体何を意味するのか分からない郭淮は母親である愛珍と共に2人で小首を傾げていました。
郭淮「?」
しかし…皇帝である曹丕を待たせる訳にもいかず急ぎ曹丕の元へと向かった
郭淮でしたが…
郭淮「失礼します。郭伯済、
お呼びによリ参上致しました。」
蒼竜峡之宮の真ん中にある曹丕の居室に入ろうとして断りを入れると中から聞こえたのはいつもと変わらぬ落ち着き払った曹丕の声と…
曹丕「ああ、入れ。」
万姫「嫌です!」
悲痛な叫び声を上げる万姫でした。
但し…
自分の定めた事は何があろうと
実行させる曹丕からすると…
曹丕「聞き分けよ、そなたのように甘えてばかりの女では郭淮のように一回り上の人間でなければならぬ…」
何が何でも郭淮と所帯を持たせたいので懸命に説得を試みてはみましたが…
万姫「それは父帝の主観であり私の願いではありませぬ。そもそも仲権様も似たような年齢ですしわざわざ仲権様に恋い焦がれる私を宿敵に嫁がせるなんて意味が分かりません。私を使って今は亡き母上に対して復讐をなさるのはお辞め下さい!」
母の事で曹丕に怒りを覚えているのは飛龍だけでなく万姫も同じだったので
曹丕の思い通りにはなりません…。
すると…
郭淮「何やら胸が切なく軋むのですが
もしや私は復讐のために純粋な恋愛に憧れている心を利用されたと…?」
この父子《おやこ》は、
1度意見が相反すると周りを見る事が全く出来ないのでございます。
司馬懿「今はそれどこれではないので命が惜しいなら…発言するでない…」
戦ならば司馬懿の下で色々経験をしている郭淮なのですがこと恋愛に関しては今まで経験がない事もあり純粋極めた思考回路を発揮するので…
郭淮「司馬様、
ついて来て下さったのですか?」
大人なので付いて行かなくても良いかなとは思っていましたがそこはやはり上司であるだけの事はありまして…
司馬懿「念のため、追い掛けて来たがやはり正解だったようだ…」
しかし…
郭淮と司馬懿はさておき…
曹丕と万姫は似た者同士に近いものがあり1度意見が相反すると…やはり周りの事などお構いなしに…
曹丕「ふん!
では言い残す事はそれだけか?」
万姫「気に入らないと
貴方はいつもそれですね…!」
険悪な雰囲気を醸し出して
周りに気を遣わせてしまう事が多々あるのでございます。
すると…
卞皇太后「お止めなさい!」
突然卞皇太后の声が響いたかと思えば
蒼竜峡之宮にある曹丕の居室・蒼竜峡之間を閉じる扉が開き…
曹丕「母上、遅かったですね。
今、万姫の許婚を決めているところで郭淮となりました。」
曹丕も冷血漢ではあるもののそこは
やはり人の子ではありますので…母親である卞皇太后には…気を遣いながら接する事を心掛けていました。
しかし…
卞皇太后「郭淮に決まりましたではなく貴方が無理矢理郭淮に決めただけではないのかしら?」
夏侯覇の最愛になる事を希っていた
万姫だからこそ幼い頃200回以上も夏侯覇との祝言ごっこを繰り返していたのは…
万姫『何度もすればいつか必ず現実になるでしょうと教えて下さった方がいたからです。』
それは…
卞皇太后「万姫、大切な人の最愛になりたいと希っているなら…何度もすればいつか必ず現実になるかもしれませんよ?」
初めて夏侯覇に逢った時に、
卞皇太后が話していた言葉でした。
実のところ…卞皇太后にも万姫と同じく恋い焦がれた殿方がおりました。
春海「曹将軍、いらっしゃいませ。
本日はどのようになさいますか?」
卞皇太后は以前、春海《チュンハイ》という本名で舞姫として舞を舞いながら生きていた女性でございました。
曹操「では…酒を吞みながら
春海の舞を所望したいと思う。。」
卞皇太后の恋い焦がれたお方こそ
今は亡き曹操の事でございました。
曹操に恋い焦がれた卞皇太后は、
古代から伝わるありとあらゆるおまじないを頼る事にしました。
そんな話を卞皇太后から聞いていた
万姫は想いを現実にするために…
夏侯覇「何回祝言ごっこをすれば
気が済むのさ?お嬢…」
夏侯覇から苦言を呈されるくらい
何度も何度も繰り返していました。
卞皇太后「200回以上祝言ごっこを繰り返してしまうくらいこの娘《こ》が仲権殿に恋い焦がれているのを知らないはずはないわよね?」
普段は別宅で暮らしている曹丕と卞皇太后ではありましたが万姫の縁談について話があると言われたので卞皇太后はてっきり夏侯覇と祝言を挙げる事が出来るのではないのか?と思いながらこの場に来ていました…。
曹丕「子どもではないのですから…
これくらい納得しているのでは…?
祝言とは家と家の繋がりですよ?」
卞皇太后「家と家の繋がりは大切ではありますが仲権殿と郭淮殿は宿敵と呼ぶべき存在ではありませんか?」
さすがの曹丕にも苦手なものはあるようで…卞皇太后に対してはタジタジになる珍しい一面を垣間見る事が出来ますがそのような曹丕を見たいというもの好きは基本的にいないと思いますが
曹丕「母上、客人を待たしておりますのでもう良いでしょうか?」
曹丕は図星を突かれると
昔から話を誤魔化す習性があり…
卞皇太后「万姫は仲権殿を好いています。なのに…他の相手と縁組させる必要がありますか?もし貴方が万姫の言う通り桜綾が自らを愛してくれず嫉妬心が募り募った為、それを晴らす為万姫を利用し今は亡き桜綾に復讐したいと望むなら皇太后の権限で貴方の思惑をうち破るまで…」
司馬懿と郭淮に注がれる女性達からの視線は残念な事に極めて冷たいものでしたが…
郭淮「私が郭伯済と申す者で
年齢は24歳になります。夏侯覇殿と共に司馬様の部下として付き従っております。」
郭淮は皆の視線に射られるような重圧感を感じながらも自らの紹介をしましたが卞皇太后からは不評でした。
何故ならば…
卞皇太后「12歳も年上ではありませんか?年齢が離れれば離れる程価値観も異なるのではありませんか?」
すぐに卞皇太后が郭淮の年齢と万姫の年齢にかなりの隔たりがある事を指摘したのですが…
曹丕はまさかの手段を強行しました。
それは…
曹丕「勅旨である!郭淮と万姫は、
西暦226年09月15日までに祝言を挙げる事を命じる。」
曹丕は皇帝である権限を利用し、
高らかに勅旨としてプライベートな
命令を出しました…。
郭淮「では…
私は公主様の夫となれるのですね…」
郭淮は曹丕の娘であり公主でもある万姫と3年後祝言を挙げる事を強制的であるとはいえ曹丕の口から聞く事が出来た郭淮はご機嫌でございました。
郭淮「では…
私はこれにて失礼致しまする…。」
ご機嫌のままで曹丕の居室から
帰って行った郭淮ではございますが…
郭淮の居なくなった曹丕の居室は、
かなり荒れ模様になりました。
万姫「勅旨で娘が祝言を挙げる相手まで定めるだなんてどこまで自分勝手なのですか…貴方は…?」
万姫は曹丕を睨みつけながら
自らの感情を吐露しました。
曹丕「…フン…下らぬ…」
但し…
冷血漢な曹丕からは
見事に一蹴されてしまったので
こういうところでリカバリーをする事が出来るのはこの人しかいません。
但し…
卞皇太后「勅旨は皇帝の権限だから
皇太后の権限を持ってしても何とかする事は…出来ないのよ…。」
〈勅旨〉は〈皇帝〉の権限。
つまり…それを覆したいならば…
卞皇太后「新たな皇帝が即位し、
子桓が先帝となる必要がある。
それで新たな皇帝が…子桓の勅旨を
無効にする勅旨を出すしかない…」
万姫「そんな…」
いつもならば助け船を必ず出してくれる卞皇太后ではあるのですが…そもそも…こうなると…助け船の出しようがありませんでした。
落胆する卞皇太后と万姫に対して
曹丕は更なる冷たい言葉を
投げつけました…。
曹丕「そなたは初恋の男とは結ばれず初恋の男の宿敵である男と結ばれる事になるのだ」
そんな曹丕に対して卞皇太后は、
息子である曹丕の仕打ちに怒りを覚え
卞皇太后「大人げない…。
一体そなたは幾つであろうか?」
肩を震わせながら言葉を紡ぎました。
曹丕「復讐は果たすためにあるのです。最初に朕を裏切ったのは…」
甄貴『私がまた小龍様の隣に戻りたいと希っているのに…貴方は…!』
曹丕は職権乱用ではありますが復讐を果たす事が出来ましたがその表情は、大喜び…ではありませんでした。
曹丕「桜綾《ヨウリン》が朕を裏切らなければ…こんな事には…!」
卞皇太后「桜綾の命を奪ったのは誰?どうして今は亡き桜綾ばかりに全ての責任をなすりつけるのかしら?」
甄貴にその責任を全てなすりつける
曹丕とその事を咎める卞皇太后…。
司馬懿「私にとっては…
どちらも大切な部下なので…コメントは差し控えさせて頂きます…」
夏侯覇と郭淮の上司である司馬懿は
複雑そうな顔をしていました…。
一方…
ロマンチックな物語に
憧れを懐いている郭淮は…
郭淮「母上…実は3年後にはなりますが私は公主様と祝言を挙げる事になりました…。陛下の御令嬢であられる万姫殿でございます。」
急ぎ屋敷に戻ると自身の母親に、
3年後に約束された自身のロマンスについて報告をしました。
郭愛珍「あらあら…まぁまぁ…。
24年もの長きに渡り浮いた話なぞ
全くなかった貴方が遂に公主様と…。これは…奇跡かしら…まさか…貴方ときたら人生で使える運の全てを皆、これに費やしたのではないわよね…」
郭淮「まさか…。縁起でもない事を言わないで下され…。母上の仰る事が正しいとすると私の周りはこれから悪い事しか起きなくなるという事になりまする…。」
郭淮と愛珍が3年後に起きるはずだった今世紀最大の奇跡に思いを馳せているまさにその頃にはなりますが…。