モネは月の丘に居た。

 遠くから見た不死鳥はモネより遥かに大きくてオレンジ色で気品があり優雅だったが、外敵には怒りりを示した。

 願い事を唱えながら、モネは不死鳥に近づき過ぎてしまったのだ。

 怒った不死鳥はモネに魔法をかけると、長い尾を揺らしてその場から飛び去った。






 「モネ!」


 声がしてシロウとカナトが走ってきた。

 カナトが倒れているモネに屈むと呪文を唱えてモネの魔法を解いた。

 シロウも素早く呪文を唱えた。

 モネはカナトの手を握り返しながら薄く目を開けた。

 不死鳥は影も形もなかった。



「モネ、大丈夫か?」

「だ、大丈夫」

「怪我は?。痛いところはない?。ああもうどうして。」

「平気。」


 モネが体を起こすと、シロウが背中を支えた。

 と、モネの頭をカナトがゴチンとグーで打った。


「ごめんなさいがまだ。勝手に居なくなって。ったくもう。」

「ほんとに。心配させるのが好きなの?。何にも考えてないんだから。」

 シロウの手が、打たれた箇所を軽く撫でてから、グーに変わってコツンと落ちてきた。

 モネは情けなさそうに首を振った。



「心配した。だって不死鳥って魔法が使えるし、実際にはどういう動物か謎のままだから」


 シロウが言った。



「近くで見ようなんて良い根性してる。そんなに近づく事ないだろ。何がしたかったんだよ。」

「そうそう、モネ、願い事のために行ったんでしょう?。何を願ったの?」

「言えよね。そうまでして願掛けする理由。言わなかったらこうだから。」

「モネ。」


 カナトの乱暴なジェスチャーを見て、モネはうーんと唸った。









 誕生日会用に飾り付けられた広間は華やかで、飾られている花束は美しい。


「じゃあ、キミは、僕たちを選べないから不死鳥を見に行ったって言うんだね。」


 テーブルの上には銀の靴。
 三段重ねのケーキの前で、ナイフを取りながらシロウが言った。


「無鉄砲。馬鹿じゃないの。ケーキ没収。」


 カナトがケーキを食べながら言う。


「僕を選ぶなら正解だけど、確かに、カナトを選ぶんならね。」

「その逆。大昔からモネは僕のフィアンセだ。」

「まったく無計画なんだから。不死鳥、危ないよって授業で習わなかった?」

「だって……」


 カナトが言った。


「お前は一生僕のもので僕が守る。幼なじみなんだから、特別な縁だ。お前が僕を取らないっていうんなら死んでやる。」

「僕はモネがカナトに脅かされて、無理やりくっつかされるのが手に取るように分かる。さっきカナトに食ったげんこ、痛かったでしょう。」

「当然。それにお前だってやったじゃないか。」

「僕はカナトみたいに思い切り打ったりしない。たとえ心配で死にそうでも、僕はいつも、優しくして愛情を勝ち取る方を選ぶね。」


 広間のソファに寝そべっているカナトを睨んだ後、シロウはケーキを食べているモネの耳に口を寄せて囁いた。


「心配する事ないよ。どうしてもそうなったら三角関係でも良い。許してあげる。僕が一生追いかけてあげるよ。カナトが折れるまで。」


 カナトがソファから起き上がってシロウを睨んだ。


「何だって?。迷惑。聞こえてんだよ。ああ面倒、嫌になる。言っとくけど、僕は折れないからな。」



 不死鳥のご加護は?。本当にあるとしたら?。この三角関係は?。


 話者はここで話を終わる。









おわり