「不死鳥は、知っての通り、願いを叶えてくれる唯一の動物です。」
教卓の前で、先生が言った。
「不死鳥の前で、願い事を念じると、その願い事は必ず叶うと言われています。というか、魔法世界で推奨されているのですね。不死鳥は穏やかですが、火を吐くので、危険があると言われています……。今日はここまで。」
モネは窓際の席で、筆箱で隠してこの間撮った列車の写真の模写をしていた。
「次実習。」
授業が終わると、シロウがモネの席へ来て言った。
「何回も言ってるけど、危ない実習だったらキミは呪文を唱えるフリして黙ってなね。僕が代わりにかけてあげるから。」
モネは頷いて、筆箱を取って教室へ向かった。
実習室にはすでに生徒達が集まっていた。
大人数用のテーブルの前モネが席につくと、その隣にシロウが座った。
その日は魔法薬の調合の授業だった。
魔法で薬を作るにはルールがあり、材料と、それに合わせた呪文の掛け方がある。
呪文は正確に唱えなければ問題が起きる。
モネは、シロウから言われていたが、呪文は自分で掛けるつもりだった。
呪文をうまく唱えられないのに、モネは魔法薬の実習が大好きだったのだ。
先生の説明が終わって、緑色の液体が入ったフラスコにモネが呪文を唱え始めると、とたんにドーン!と大きな音がして、爆発が起きた。
もくもくと上がる黒い煙に、モネが立ち往生していると、後ろから小声で取り消しの呪文が聞こえた。
「僕がやるって言った。今までに何回言った?。ほんとにぶん殴られたいの?」
シロウが最後まで言い切らないうちに、ゴツン!と音がして後ろからカナトがモネの頭を打った。
「復唱。」
カナトがモネを睨んだ。
「私はもう二度と魔法薬の授業では呪文を唱えません。危ないだろ。まったくもう、馬鹿なんだから。」
「ほんとに殴ることないだろ。モネ、痛くなかった?」
痛かったので、モネは小声でカナト恨み言を言った。
「なあに?」
カナトが聞いた。
「毎回唱えるフリだけしてろって言ってるだろ。いつになったら分かるんだか。次やったら二倍。」
カナトはモネをてんで相手にしてくれず、シロウも小言を言いながら、爆発で散らかったテーブルの上を片付け始めた。
モネはボソボソと失敗の言い訳を言った。