不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?

 次の瞬間、辺りに鈍い音が響いた。
 それがマグナード様の拳が、ヴォルダン伯爵令息の顎を砕いた音だとわかったのは、一人の悪漢が力なく崩れ落ちたのが目に入ってからだった。

「ヴォ、ヴォルダン?」

 相方が崩れ落ちたのを見て、ムドラス伯爵令息は目を丸めていた。
 しかし、彼はすぐに気付いた。今が、驚いている場合ではないということに。
 ただ、それでも判断は遅かった。既にブライト殿下は、ムドラス伯爵令息の後ろに回っている。

「あがっ、痛っ……」
「少し大人しくしていろ」

 ブライト殿下は、ムドラス伯爵令息を冷静に拘束していた。
 その手際は、見事としか言いようがない。彼はマグナード様よりもともすればスマートに、一人の悪漢を制圧したのである。

「……ミレリア嬢!」

 それを見た私は、ほぼ反射的にミレリア嬢の方に近寄っていた。
 私は身を屈めて彼女に呼びかける。とりあえず意識があるかどうかを、確認しておきたかったからだ。