「ち、ちょっと外の空気に当たってくるね」
そう言って、詩乃が救護所を出ていった。
おい、俺の警護はいいのかよ。って思ったけど。
……なにやってんだよ、俺。
もっと冷静に、順序を踏んで事を運ぶつもりだったのに。
あんなこと言ったら、アイツを混乱させるだけだろ。
「ああっ、くそっ」
「——あんた、なにやってんの」
背後で低い声がするのと同時に、首筋にひたりと冷たいものが当てられる。
俺は、降参の意を示すようにして、ゆっくりと両手をあげた。
「まさか売店で買った食いもんに毒が仕込まれてるなんて、思わなかったんだよ。俺が詩乃にわざとそんなもん食わせるはずないだろ」
「……」
しばしの間のあと、チッと小さく舌打ちする音がする。
「そんで、犯人は?」
「もちろん、ちゃんとあんたのとこの人間に引き渡しといたよ」
「さすが。仕事が早いな」
「僕の任務は、あくまでも『詩乃を守ること』。依頼人とはいえ、あんたの命は知ったこっちゃない」
「わかってる。それが契約だからな」
言いたいことだけ言うと、声の主の気配は消えた。