そんな作業の中、さっき先生が言った言葉を思い返す。
『恋愛ごっこの間は、抱きしめる以上のことはしない』
「……」
正直なところ。
いつ、キスされるのか。
少しだけ…ほんの少しだけそんなことを思って、勝手に1人でドキドキしていた。
ていうか……私、行波先生にキスされることを、期待していた?
「…っ!!!!」
心臓が飛び跳ねると同時に、体も飛び跳ねる。
勢い余って…椅子から落ちてしまった…。
「秦野!?」
「…痛い…」
いや私、何を考えているの。
怖い、自分が怖い…。
そんなこと考えるなんて、自分で自分にドン引きだ。
「秦野…どうした…」
心配そうに駆け寄ってきた行波先生。
先生は私の体に手を添えて起こしてくれる。
もう、それだけで再び心臓は飛び跳ね、心拍数が上がり、呼吸が苦しい。
目に涙が滲んでくる。
初めての感情に、頭が追い付かない。
「…先生、私…体調が悪いかも」
「え?」
「だから、すみません。当番の途中ですけど、帰ります」
「え!?」
震える体を抑え、急いで立ち上がる。
「秦野、待って!」
行波先生の言葉に何も反応せず、鞄を持って図書室から飛び出した。
分からない。
分からないよ。
先生がすぐ近くにいる状況なんて、これまでも当たり前にあった。
何も感じなかったのに。
ただ、近くにいる。
それだけだったのに。
今の私は、行波先生が近くにいると
心臓が跳ねて
心拍数が上がり
胸が苦しくなる。
これが、恋をするという感情?
私は、行波先生のことが好きになっているの?
分からない。
分からないよ。
何も、分からない…。
責任を持って、全部教えてよ。
行波先生…。