さて、私が離れに移ったころ本宅ではお父様とお義母様が話をすることになった。
「アマンダ、話があるそうだが」
 コードルは久しぶりに会った、自身の妻アマンダに声をかける。
 その表情は、はっきり言って久しぶりに会う夫婦とは思えないほど冷たいもの。
 互いにすでに、好きに過ごしている夫婦としては破綻しているが貴族はそんなものだとコードルの世代は思っている。
 デリアンやマーマリナは仲睦まじく過ごしているし、その点は自分と同じにならず良かったと思っている。
 シエラの母だったメイドは男爵家の庶子だった故にメイドとして働いていたが、気立ての良い穏やかさに安らぎを感じていた。
 しかし、すでに破綻していたとはいえメイドと関係を持ったことにアマンダのプライドが傷ついたのだろう。
 それが、今になって分かった。
 そしてその傷の怒りは残されたシエラに向かった。
 それは、まさしく家族に向き合わなかった己の責任であると。
 しかし、血がつながらない継子をそれで虐げていいとは言えない。
 聞けば、シエラは五歳からメイド服とメイドの仕事をさせられていたと。
 それを家令も、執事も侍女頭、メイド長も容認していた。
 女主人のアマンダの指示だから、逆らうことは出来ない。
 それが十二年続いた、淡々と話すシエラからは既に私達への情など残っていないのだろう。
 本当に、事実のみを怒りもなく、少しのあきれと共に話しただけだったのだから。
「旦那様、お戻りを嬉しく思います。して、今回は何用で皇都へ?」
 どうやら、アマンダはまだシエラのことには気づいていない様子。
 しかし、ここでそのままには出来ない。
 家族の始末は私がつけねばなるまい。
 幸い、一か月後にはアリアンも公爵家に嫁入りする。
 ここが、デリアンへの爵位継承時であり、隠居するいい機会だと思うことにした。
「今回はシエラに婚約の打診があったために本人に伝えるために皇都に来た。すでに伝えて、本人も承諾したので婚約を整える」
「まぁ、シエラに婚約が。どなたからですの?」
 ニヤリと、アマンダが顔を歪めて笑う。こんな顔を見せる妻にシエラを任せたことを後悔する。
 シエラからすれば、遅すぎるだろう。
「アイラザルド辺境伯だ。来月には婚約と共に辺境伯領へ出す。それまでシエラはデリアンたちの離れで生活させる。アマンダ、君は侯爵夫人として社交は立派だったが家内は出来なかったようだね」
 私の言葉と態度から、アマンダはさっと顔色を変えた。
「旦那様、それはどういうことです?私は立派に家内も回しておりましたわ」
 自覚はあっても認めたくないと言ったところか……。
「シエラの社交デビューと言って渡した予算から、シエラの物はなに一つ増えていなかったうえに、シエラの部屋はなぜか使用人用の屋根裏部屋。そこには色褪せたメイド服と下着が三着しかないうえに、ダミーの部屋にもシエラに似合わない派手で大きな流行遅れのドレスが五着申し訳程度にかけてあるだけだったが?」
 家令に檄を飛ばし、シエラの使用人部屋とダミーとして用意されたシエラの部屋とを見てため息があふれたものだ。