近くにいたリルの空気が変わる。
 こういう時は大体精霊王様が来た時だ。
『ふむ。この国は皇帝がずいぶん偉そうだのう。愛し子のおかげで国が成り立っていると忘れたのかのう? ちと、灸をすえるか? なぁ、シエラよ』
 リルから聞こえて来た精霊王様の声に私は、うーんと考える。
「まぁ、国を治めている皇帝だから偉いのは違いないけれど。精霊王様は、私が行きたくないなと思ったからそう考えるの?」
 私の言葉に、精霊王様は首を振って違うという意思を表す。
『ここ最近は人間たちは我らの存在に関して、だいぶ忘れていると感じてな。しっかり思い出させるいい機会となろう。皇都には我も行こう。そなたの姉には触れさせんから安心するがいい』
 ウィンガルム様がそういうのなら、安心だろう。
 そもそも、リルが近くに居たらまず人は寄ってこない。
 本当に優秀な護衛で番犬である。
 辺境伯邸は既に使用人もリルに慣れているし、騎士たちも大きなリルも小型化したリルも優秀な聖獣として接してくれるが、なにも知らない人から見たら大きなオオカミ以外のなにものでもないので恐怖の対象だ。
 こんなに穏やかでいい子なのだが、まぁ主食魔獣の時点で肉食なので仕方ないのかもしれない。
「手紙の返事は俺が書こう。まず、シエラの姉は皇宮内に立ち入らせないこと、フェザーライト侯爵は代変わりしたから、デリアン夫妻だがこちらは大丈夫か?」
 クロムス様の確認に、私は頷く。
「お兄様とマーマリナお義姉様は大丈夫。でも、次期公爵夫人のアリアンお姉様を皇宮内に入れないって出来るものなの? 宰相が義父で宰相補佐が夫なのですが」
 私の言葉にクロムス様はすこし考えいているが、そこは聞いてもらわなければ式典に参加しないし、万が一、それが果たされず、会うことになった時には愛し子は皇都に二度と行かないだろうと書くことに決まった。
 国のトップがしっかりしてることを願うばかりだ。
 手紙は、転移装置と呼ばれる手紙などの軽いものを送る装置で皇都の皇宮内に送られた。
 手紙だけは各領主の館に皇宮との直通転移装置があるのでやり取りができるらしい。
 手紙とはいえ、やり取りが早いのは助かる。
 馬車で一週間の距離なので、手紙もそれくらいかかるとなると返事が来るのも時間がかかるので結果が分かるまでの時間が膨大。
 便利な装置があってよかった。
『これも、時の精霊と空間の精霊が手を貸さねば動かぬ代物よ。約束を違えたときは精霊が皇都から辺境に皆移動してしまうだろうな』
 精霊王様は面白そうにそんなことを言う。
「それって、皇都はどうなるの?」
 精霊王様に聞けば、すんなりと答えた。
『皇都はまず、草木も生えぬし、動物も去るし、魔法も使えなくなるだろうな。皇都が衰退し辺境伯領が豊かになるだろう。精霊の力と恵みとはそういうものだ』
 なるほど、そして精霊の関心は私になるのだから、現在も割と多くの精霊や妖精がいるけれど、これより増えるということか。
 もともと自然豊かで、ここは精霊にも妖精にも環境がいいからここに来たらここに居ついちゃう子のほうが多そうだなとは思う。
『そうだな、ここは我らには心地よい環境だからシエラに会いに来たままここにいる者も多い。間違いなく、約束を違えたら皇都は衰退するな』
 皇帝陛下、どうか約束をお願いしますね……。