誕生日を迎えてからしばらくだった頃──



すっかり肌寒くなってきて、上着がないと冷えるようになってきた。



そんな中部活に行く前に、以前良く眺めていた灰田くんの写真を取り出す。



前までなら写真を見ただけでドキドキと心臓が高鳴っていたけど・・・最近無くなってきた。



それに、灰田くんと話していても緊張しなくなってきている。



前に灰田くんに事故で抱きついた辺りからだった気がするから、ショック療法みたいな感じかな?



「陸の写真なんか見てどーしたの?」



「っ・・・!?く、黒瀬さん!?」



席に座っている時、後ろから顔をのぞかせている黒瀬さんに驚いて立ち上がって距離をとる。



ビックリした・・・いつもなら廊下から声掛けてくるから真後ろにいるなんて思わなかった。



「・・・そんなに陸の事、好きな訳?」



「え・・・」



黒瀬さんの発言に、呆気に取られる。



前に黒瀬さんに灰田くんが好きだってバレた時はあんなに動揺してたのに、今は別に動揺していない。



「そんなことは・・・」



「ふぅん・・・」



否定をすると、興味なさそうな声で相槌を打たれる。



黒瀬さん、なんか機嫌悪い・・・?



「・・・あ゙ーっ・・・くそっ、余裕なんて持てるか・・・!!」



「!?くっ、黒瀬さん・・・!?な、なに・・・!?」



ガシガシと頭をかいたあとに、正面から私の腕を掴んで自分の方へと引き寄せ、力強く抱き締めてくる黒瀬さん。



その行動に暴れだしたのかと思うほど心臓がバクバクと早鐘を打つ。



「ねぇ、陸なんて好きでいるのやめて俺の事好きになってよ」



「っ・・・!?あ、あの・・・!!」



耳元でささやく黒瀬さんにビクッと肩を震わせ、慌てながら何とか黒瀬さんの腕から逃げようとする。



だけど、力強く抱き締められていて逃げることが出来ない。



「・・・慌てちゃって・・・可愛い・・・もっと俺の事意識して。・・・あ゙ー・・・好き・・・好きだよ、伊吹ちゃん・・・」



「っ・・・」



しみじみと呟く黒瀬さんの言葉に息を飲む。



なんでそんな声で言い続けるのかな〜・・・!!



「どうしたら伊吹ちゃんは俺に振り向いてくれるの・・・?」



「あ・・・あの・・・!えっと・・・!」



甘えるように呟いてくる黒瀬さんに言葉が出てこない。



どうしたらって言われても・・・!!



「・・・こういう時、言葉が出てこなくなっちゃうの、本当可愛いけど・・・ちょっとやりすぎたかな、ごめんね」



「っ・・・」



力強く抱きついていた腕を緩めながら、ゆっくりと離れる黒瀬さん。



解放された時、口元に手の甲を当ててうつむいて黙り込む。



前までならここで“冗談だよ”って言ってたけど、告白してきた今はそんなことは言わない。



全部本気のこと。



本当、心臓に悪いなぁ・・・。



「部活、行こっか」



「っ・・・・・」



チラッと黒瀬さんを見ると、愛おしそうな表情をしながら私のことを見つめている。



そんな黒瀬さんから視線を逸らし、コクリと頷いた。