次の試合を待っている間、私達は体育館外の待機所にいた。
それぞれが体を冷やさないようにストレッチや軽く体を動かしていた。
「伊吹ちゃん、ちょっといい?」
「?なんですか?」
皆から少し離れていて、死角になっている所から顔を出して手招きをする黒瀬さん。
手招きされるがまま、黒瀬さんの方へ向かう。
「ちょっと気合い入れたくてさ。ちょっとそこに立ってじっとしててくんない?」
「はい?ここですか?」
言われたとおりに壁際に立ち、黒瀬さんを見上げる。
その時、黒瀬さんが愛おしそうな表情をしながら私のことを見つめていた。
な、なんで、そんな表情してるんですか・・・?
「・・・うん、そこでいいよ。・・・じっとしててね」
「え──」
そういうと、黒瀬さんは近付いてきてギュッと私の体を抱きしめた。
ふわっと制汗剤とほんのりと汗の混ざった匂いが鼻を着く。
それと同時に何が起きたのかを理解し頬が熱くなっていった。
後ろから抱き着いてくることはあっても、正面から来るのは初めてて戸惑ってしまう。
「あ、あの・・・黒瀬さん・・・!?」
「じっとしてて、すぐ済むから」
少しでも離れようと黒瀬さんの胸板を押し返す。
だけど、耳元で響く黒瀬さんの低い声に私は動きを止めざるを得なかった。
私の肩にあごを乗せ、すがりつくように抱き着いてくる黒瀬さん。
少し躊躇しながら、彼の背中に手を伸ばし服を掴んだ。
すると、ピクッと反応したのと同時に抱き締める腕に力を込める黒瀬さん。
「・・・ハァ〜・・・」
深いため息を吐きながら、私の肩口に頭を乗せる。
黒瀬さんの髪が首筋に当たって、少しくすぐったい。
「・・・ねぇ、伊吹ちゃん。・・・“頑張れ”って言って?」
「え?・・・が、頑張れ・・・」
「・・・・・・スゥ〜・・・ハァ〜・・・」
黒瀬さんに言われるがまま口にすると、急に深呼吸を始める。
どうしたんだろう・・・。
「・・・よし、気合い入った。ありがとね、伊吹ちゃん」
そういうと私を抱きしめていた腕を緩め、ゆっくりと離れていく。
「あ・・・いえ・・・」
さっきまで強く抱き締められていたから、名残惜しく感じてしまう。
その直後、そう感じたことに対して驚いた。
なんで名残惜しいだなんて思ったんだろ・・・。
「そろそろ前の試合が終わる頃だね。準備しよっか」
「は、はい」
黒瀬さんに促されるように皆の所に戻り、準備を始める。
重い荷物を何とか持ち上げた。
だけど、重くて少しフラついてしまう。
「伊吹さん、それ重いですよね?フラついてますよ。俺持ちます──って、なんか・・・顔赤くないっすか?」
「へ!?べ、別に!!暑いせいかな!?」
ふらついた私を気にかけてくれた灰田くんに顔が赤いと言われてしまう。
確かにさっきから顔が熱かった気がしてたけど・・・赤くなってたのか・・・。
「・・・そうですか?まぁ、荷物は俺が持つんで」
「あはは・・・あ、ありがとー」
顔が赤いことを何とか誤魔化し、灰田くんに荷物を持ってもらった。
危ない危ない・・・。



