結局あの後、練習が再開するまで黒瀬さんと手を繋いだまま過ごした。
そのまま練習が本格化していき、ボールが飛び交うようになる。
マネージャーの仕事をしながらその様子を見つめていた。
「ダラダラ練習すんじゃねーぞ!どこを狙うか、明確に意識して練習しろー!」
「はい!!」
黒瀬さんが腕で汗を拭いながら、みんなに向かって声をかけている。
私は、なぜかその姿から目が離せなくなった。
あんなに汗かいて、息も上がってるからしんどそうなのに・・・すごく、楽しそう。
それに、いつもは見せないような表情で練習に打ち込む黒瀬さんの真剣な表情に目を惹かれる。
ちょっとだけ・・・カッコイイ・・・かも・・・。
って、私は何を考えてるの!?
集中しなきゃ・・・。
黒瀬さんから視線を外し、マネージャーの仕事を片付ける。
ドリンクも無くなりかけてるから作らないといけないな。
空になったボトルを持ちながら、体育館の外に行き水道場に向かう。
黒瀬さんといると、調子狂うんだよな。
黒瀬さんは“冗談”って言ってるけど・・・私の事、好き・・・なのかな、なんて考えてしまう。
好きでもない子に“俺から離れないで?”なんて言わないだろうし。
だけど・・・黒瀬さんだったら言いそうではあるな・・・。
「・・・わかんないなぁ・・・」
「なにが?」
「っ・・・!?」
ボソッと呟いた時、後ろから返答が来てビクッと肩を揺らす。
振り返ると、そこには首にタオルをかけた黒瀬さんが私の後ろに立っていた。
「く、黒瀬さん・・・練習は?」
「休憩中。ドリンク飲もうとしたんだけど無かったからね。・・・それで、分からないって、なにが?」
「えっと・・・」
黒瀬さんの問いに、言葉に詰まる。
まさか、あなたのことを考えていました・・・なんて、言えるわけないし。
どう答えればいいのかな・・・なんて考えながら黒瀬さんの方を見る。
「・・・ん?どうかした?」
「・・・いえ、なんでもありません。そんなことより、ドリンクですよね。コレどうぞ」
答えを濁したあと、話題を変えるためにも黒瀬さんにドリンクを差し出す。
一瞬困惑したような顔をしたけど、素直に受け取る黒瀬さん。
「ありがとな。・・・で、さ。・・・さっき、練習してた時、俺の事見てたよね?」
「っ!?」
黒瀬さんの言葉に驚き、ドリンクを作っていた手を止める。
まさか、気付かれてたなんて思わなくて頬が熱くなっていく。
多分、顔赤くなってる。
「い、いえ!そんなことは・・・!!」
「そんなこと・・・あるでしょ?なんで見てたの?」
お腹に響くような低い声で甘えるようにささやく黒瀬さん。
なんでそんな風に言うのかな〜!?
「もしかして・・・俺に見惚れてた?」
「・・・え、えっと・・・その・・・」
「・・・ふふっ」
どう言葉を紡ごうか、目を泳がせながら迷っていると、黒瀬さんが笑いだした。
何事かと思い、黒瀬さんを見つめると優しい目をして私に視線を向ける。
「ごめん、冗談。意地悪しすぎたかな?ゴメンね」
「あ・・・いえ・・・」
「じゃあ、俺体育館戻るから。・・・ボトル作り終わったら、戻っておいで」
また・・・冗談・・・か。
「・・・はい」



