桜記念日

読んでいる途中で泣きそうになった。

それを勘付いたのだろうか、横にいる拓実がそっと肩を抱いてくれた。

『理名、よく頑張ったね。
一緒に、少しずつ親になろうな。

深月ちゃんや椎菜ちゃん、美冬ちゃんもいるし、大丈夫だろ。

手紙でさらっと言われるなんて思わなかったから、ちょっと面食らったけど。

式と二次会終わったら、と名前とか考え始めようか」

まだ性別も分からないのに、それは早いと思う……
ということは敢えて言わないでおいた。

「理名にしか分からない身体の負担は、どうにもしてあげられないから。
それが一番、歯痒いんだけどさ。

ありがたいことに、そういう男の立場を経験した人が3人もいるし。

頼りながらやっていくよ。

理名だけに背負わせないから」

「それでこそ男だ、拓実!」

「よく言ったぞ、拓実ー!」

絶対、ビール瓶数本開けたな、というノリで、拓実に絡みだしたのは道明(みちあき)くんだ。

「コラ、ミッチー!
変な絡み方しないの、まったく!

父親の自覚なしね、教育に悪いったらありゃしない。

私で良ければ、色々話すね!

こんな食事会の時間じゃ話しきれないから、私の経験談で良ければ文書にして送るね!

ちょっと時間かかっちゃうけど」

こういうときに、助け舟を出してくれるのはさすが深月だ。

彼女は愛娘の様子を見てくると言って、紫のドレスの裾をはためかせて会場を後にした。

母親も大変だなぁ。