「やっと、着いた……」

 安堵のため息をついたのは、久しぶりの運転だったせいだ。通勤は電車だし、車も持っていない。ペーパードライバーの身で、よくぞここまで辿り着いたものだ。

 私は凝り固まった首を回しながら、母に借りた車から鍵を抜いた。シートベルトを外してドアを開けると、最近土を踏んでいなかったことを思い出す。

 草も木も都会にだってあるが、ガツンと衝撃を受けるような香りを感じることは、ほとんどない。ゆっくりと深呼吸すると、身体中に自然が染み渡っていくようだ。

 ――ここに来るのも、久しぶりね。

 高校卒業以来だから、もう五年以上来ていない。
 実家のある駅前にはショッピングセンターがあり、数年前には図書館も移転オープンして、そこそこ栄えているけれど、祖母の家はまさに田舎の原風景みたいな場所にある。

 山間に位置し、畑や田圃、どこまでも広い空は、昔と少しも変わっていなかった。

「お祖母ちゃんが施設に入って、もう結構経つでしょう? あのまま自宅を放置しとくのも問題だし、奈央にゴミ屋敷の掃除を頼みたいんだけど」

 そう連絡があったのは、ゴールデンウィークの数日前だった。
 せっかくの休みをそんなことで潰したくないと私は抗議したのだが、「一日ぐらい良いでしょ!」と母に押し切られてしまった。

 昔から母は強引なのだ。私の意志など関係ない。