真逆の私たち

「逆瀬 水優(さかせ みゆ)さん」
季節はずれに転校してきた私に興味津々のクラスメイトたち。
今は9月下旬。
「みなさん、よろしくね!」
私はペコリとおじぎする。
「水優ちゃん!よろしく!」
すでに歓声はあがっているけど…
「逆瀬 陸(さかせ りく)さん」
そう。私たちは双子なのだ。
陸が先に生まれたわけだけど、陸は背が低い。陸は目立つのが好きじゃないから、前の中学から引っ越してきた…ってわけ。
「陸です」
ほら、やっぱり。
私が明るい性格なのに対して、陸はクールで無口。
前の学校でもモテていたけど、陸は冷たくあしらうだけ。
クラスが違うから、陸に友達がいたのかは知らないけど、注目されるのが嫌だからという陸のワガママを、お母さんが受け入れたのだ。
だから、少人数の学校を選び、双子の私たちは同じクラスなのだ。
休み時間は案の定。
男子は陸に、女子は私の席で質問ぜめをしていた。
「水優ちゃん、どこから来たの?」
「水優って可愛い名前だね」
「双子ちゃんなんだね!」
もちろん、転校生のわけだから、興味をもってくれる人もいれば、私たちのことをよく思わない人もいる。十人十色っていうやつかな。
「うん。よろしく。えーと名前は?」
「漢那(かんな)!」
「純恋(すみれ)!」
次々と自己紹介をするみんなに、ふふふと笑みをこぼす。
「黙れ。うるせえよ」
陸が囲まれている男子に一喝する。
「双子ちゃんなのに、性格が違うんだね」
私は漢那の言葉に、苦笑い。
「ちょっと陸くん、怖いよね」
「1人が好きなんじゃない?」
陸の悪口合戦になってる。
どうしよう。とめなくちゃ!
「じ、実は私ね、水泳が得意なんだ!」
「そうなんだね。名前の通り!水に選ばれた人なんじゃない?」
「確かに!」
話題がそれたことに内心ホッとしながらも、口角をあげる。
「じゃあ陸くんは陸上?」
ギクリとした。
陸はサッカー少年。陸上には興味がないと言っていた。
「えっと…」
「水優もいちいち隠さなくていいから」
にらまれて、私は正直に言うことにした。
口を開くと…
「陸くん、水優ちゃんにも冷たいんだね」
「どっちが先に生まれたの?」
「…陸」
どれだけ私たちが双子やってきたと思ってるの?陸の瞳の奥には、いつも悲しみの色が見えていた。
ガタッと陸は乱暴に席を立った。
「待ってよ、陸!」
私も思わず立ち上がってしまった。
「妹ちゃん大変」
「がんばってね」
そんな声が聞こえる中、ずんずん歩く陸についてくる。
「何の用?妹は大変じゃねぇの?」
「どうしてそんなにいつも怒ってるの?」
見下ろすように言う形になってしまったのが気に入らなかったのか、蹴りを入れてきた。
キャーと教室から顔を出す生徒や、先生を呼ぶ生徒までいる。
これはいつものケンカなのに…。
「ついてくんなよ、俺を悪者にしてさっさと行け」
「そんなこと…」
「はやく行けって言ってるだろうが!」
小さいくせに、今は動けないほどビックリした。
あわてて教室に戻るも、なんだかスッキリしなかった。
「大丈夫、水優ちゃん?」
「ありがと、純恋」
漢那はまだムスッとしている。
「ひどいよ、こんなことするなんて。本当に双子なの?」
この言葉が1番言ってほしくなかった。
「どっちかがどこかで拾われて来たとか、それで同い年だからって…」
周りの子たちも噂をし始めた。
「お兄ちゃんってホントなの?背は水優の方が高いし、性格もいいし…」
ヒートアップしていく会話をさえぎるように、チャイムが鳴った。
何事もなかったように陸も席に着いた。
1日目だけど、放課後になった頃にはすっかり疲れていた。
「陸、練習してから帰るの?」
サッカーボールを手に、運動場へ行こうとする陸に声をかける。
「ん」
私は返事を聞くと、家へと急ぐ。
「ただいま」
「おかえり、今日は水優の方がはやかったんだね」
お母さんがキッチンから顔を出していった。
「サッカーの練習してから帰るんだって」
ソファに座ると、お母さんも横に座った。
「ねぇ、お母さん。陸…友達づくりをしようとしないよ」
「人それぞれなんだから、いいじゃないの」
お母さんは私の頭をなでた。
「陸の性格を水優もよく知ってるでしょう」
そう言いたいんじゃないのに、と思いながらも、私はコクンとうなずいた。
昨日は金曜日だったから、今日は日曜日。
なぜか朝から陸ににらまれてるし、私は外に出た。
特に予定はなく、公園のブランコに座った。
近くにあった小石を、思いっきり蹴る。
私は本当は明るくなんかない。小学生の頃まで、ずっとネガティブなことしか考えられなくて。だけど、友達もつくりたくて、『私』を演じ始めたんだ。それが今では『本当の私』になっちゃってて…。
陸も『クールで無口』を演じてるんじゃないかって…だからお母さんに聞いてほしかった。
「…い!おい!聞いてんのかよ?」
顔をあげると、綺麗な顔立ちをした男子が1人いた。
「は、はい!なんでしょう?」
「なんでしょうじゃねぇよ、バカ!お前が蹴った石が足に当たったんだよ」
「す、す、すみません!」
バッと頭を下げる。
「そんなに怒らなくても。ねぇ、怜音(れのん)?」
後から走って来た男子が怜音くんをなだめる。
「違います、私が蹴った石が…」
そこまで言って、気がついた。2人、同じ顔してる!
「あなたたち…双子、ですか?」
「それが?」
怜音くんが怪訝そうに眉を寄せる。
「もしかして、君も双子なのかな?」
その一方で王子様のような人が聞いてきた。
「あ、はい!私、逆瀬 水優っていいます!」
「俺は、田岡 玲緒(たおか れお)!で、双子の弟、田岡 怜音だよ」
優しく自己紹介してくれて、ホッとする。
まさか、私の蹴った石がこんな出会いにつながるとは。
「よろしくお願い…」
「俺たちの縁はここで終わりだろうけど」
怜音くんがさらっと言う。
うっ…確かに。
でも、こんなイケメンたちと知り合えてよかった!性格も良さそうだし!(怜音くんはなんともいえない感じだけど…)
「んー、俺たちが会ったのはなんかの縁だよ、絶対!よかったら連絡先交換しない?…あ、いきなり言われても怖いよね。大丈夫!俺たち、中2だから」
私と同い年でおどろいた。
ちっとも怖いとは感じなかった。むしろ、嬉しかった。同い年の男子とは、陸としか関わっていなかったから。
「あ、一応怜音の連絡先も登録しとくね」
「おい、玲緒!やめ…」
「もう登録したから。いつでも連絡してね!」
それじゃあ、と玲緒くんは去っていく。
なぜか怜音くんはその場に残っていて、私たちの間にはすごく気まずい空気が流れた。
「怜音くんたちもさ…」
「怜音くんって呼び方気持ち悪い」
え、呼び捨てってこと?
「で、話の続きは?」
「双子って、わかりあえるものなの?」
「は?」
初対面でこんな質問はマズかったかな?
どうしようと思わず下を向く。
「ああ、双子って言葉にしなくてもなんとなく言いたいことがわかるってやつ?」
意外にも返事をしてくれて、コクリとうなずく。
「私、双子のお兄ちゃんがいて。やっぱり、双子ってなにがホントかウソか、だいたいわかるの。だけど、陸は…あ、陸っていうのはお兄ちゃんの名前でね…いつも怒ってるという感情を顔には出してるけど、なんか本当の感情じゃない気がして…」
話しすぎちゃったかな…?双子の弟と妹だからって、こんな相談難しいよね…。
「でも確かに俺も考えたことなかったけど…アイツ、俺にも家族にも、いつも笑顔を崩さなくて…弱音ひとつ吐かない。だから本当はどう思ってるかわからないな」
弟と妹同士、同じ悩みをかかえているんだな。
「初対面なのに色々話してごめん。怜音、また…話してくれる?」
「ん」
なんか、陸と似てるかも。
というより、まだ朝の9時。家に帰るのも嫌だし…私って居場所がないのかな。
「どうした?」
私の変化に気がついた怜音が声をかけてくれた。
「なんか、全てがどうでもよくなっちゃって」
「なんでだ?」
「居場所がないように感じたから」
思ったことをそのまま口にした私自身におどろいた。
自分の意見を口にすることなんてめったいにない。いつも明るくふるまうのに必死で。
「居場所…か。えっと、お前の名前はなんだっけ…?」
「水優だよ」
「どういう漢字?」
私は地面に指で書く。
「水優、これから予定ある?」
「ううん、ない。家に戻っても陸が怒ってる演技をして、苦しいから」
「俺も予定、ないんだ。だから、ここにサッカーの練習をしに来た。よかったら、陸とやらを連れてきてもいい。俺がその怒りか悲しみをつきとめてやるから」
さっき会ったときの怜音の第一印象は、怖い、だった。
このままたのむ?でも、私たちだけの問題だよね…。
「ありがとう…でも、私がやっぱり解決するね。怜音にたくさん話を聞いてもらったから」
「じゃあ、頑張れよ」
あれ、一瞬…怜音笑った?
「行きたいとこ、ある?」
男の子と行くところって、どこだろう…。
「映画、見たい」
言ってからハッと口をおさえる。
「いいよ、別に」
家の前を通ると、陸が立っていた。
ウソでしょ、なんで…。
「水優、そいつ…」
陸が顔をしかめた。
「怜音だよ」
「俺たち似てるみたいだな。感情表現が苦手なところとかな」
怜音が陸の言葉に眉間に眉を寄せた。
怜音、陸が感じ悪くてごめんね…!
「水優、これからどこ行くんだ?」
「…映画」
「怜音…は今日知り合ったのか?なのに映画?バッカじゃねぇの。行かせねぇよ」
怜音がビックリするくらい優しい声で言った。
「君たち、双子だからやっぱりそっくりだね」
陸が私をにらみつけた。
「俺のことまで言ったのか?」
「うん」
「陸くん…、水優ちゃんだよね」
怜音がおそるおそる言った。
それよりどうしちゃったの、怜音!
「じゃあな、怜音」
「うん…陸くん、いつか一緒にサッカーしようね」
背を向けた陸は一度止まったが、家の中へと入ってしまった。
「水優も」
「怜音、ごめんね」
「気にすんな」
あれ、いつもの不機嫌モードだ。
家の中へ入ると、
「だいたいお前は…」
陸が言おうとするのをさえぎって、
「じゃあね」
私は部屋へこもった。
YouTubeでも見ようとケータイを開くと、怜音からのメッセージが!
「なんだろう…」
陸が感じ悪かったしなぁ…。
『ひとつヒントがつかめたよな。陸自身が【感情表現が苦手なところ】って言ってた』
あ、なるほど!さっき相談したことにさっそく協力してくれてるんだ!私1人で解決する!なんて言っちゃったけど…怜音ありがと!
『ありがとう!陸が感じ悪くてごめん!』
って、既読スルーかよ!
でも怜音らしくて無意識に笑みがこぼれる。
翌日。
「おっはよ〜、水優ちゃん!」
「おはよう!」
純恋や漢那が笑顔で挨拶をしてきた。
「おはようっ」
私も思わず笑顔になる。
「おい、闇はまだなのかよ?」
「闇って…?」
や・み…?
どういうことだろう。
後から登校してきた陸を見て、みんなが騒ぎ立てる。
「闇が来た!逃げろーっ!」
は?陸のこと?
許せなくて、拳を握る。だけど何もできない自分に呆れる。
「ねぇ、みんな!」
私は思いきって声をあげた。
「優等生ぶるのかよ、ほっとけよ」
陸が冷たく言い放つ。
「妹ちゃんがかわいそっ」
男子が大丈夫ですか?なんてふざけて私に問いかけてくる。
「陸も…何かあったら何でも言ってほしいのに」
私がつぶやくと、
「静かに!」
先生が入ってきて、私たちを注意する。
「最近は…転校生が多いですね」
みんな、それがなんだよ?という空気で誰もが興味を示さない。
「ここでまたもう2人、転校生を紹介します」
はやく言えよ、と男子が言うと、先生が生徒をにらみつけた。
「どうぞ、入って」
…っ⁉︎ウソ、幻覚⁉︎
「こんにちは!田岡玲緒です!」
「…怜音です」
なぜ⁉︎
「そうですね。玲緒さんは陸さんのとなり、怜音さんは水優さんのとなりに座ってください。先生は少し職員室に行ってきます」
マジか…⁉︎
「怜音…なんで?」
「親の仕事の都合で。親がてんきんぞくだから」
「ふーん」
そうなんだ。まさか、怜音と玲緒くんにここで再会するとは!
案の定、陸は嫌そうな顔をしていた。
玲緒くんは陸に話しかけまくっている。
「君の名前は?…あっ、もしかして水優ちゃんの双子のお兄ちゃんかな?」
「ったく、水優のヤツ…」
「うわぁ、そうなんだね!君、なんか怜音と似てる気がする!」
塩対応の陸と、興味津々の玲緒くん。
ちょっと笑えてくる。
「ああ…陸くん!陸くんだね!名簿見させてもらったから、そうかなって思ったんだ!」
陸が玲緒くんをギロッとにらむ。
「玲緒ってヤツ、闇と仲良くしてるぜ」
男子がケラケラと笑う。
「みんな、闇って誰のこと?」
何にも知らない玲緒くんがたずねる。
「見ればわかるだろ」
「陸くんのことかな?」
みんな玲緒くんを相手にしない。
「闇かぁ…闇っていいよね!好きな子としれっと手をつなげちゃうし、赤面しても見られないし!耳元で囁くってシュチュエーションもいいなぁ…ん〜、あ、そっか!みんなは陸くんと手をつなぎたいんだね⁉︎だけど、俺が1番に手をつなぐから!ライバルけちらすぞぉ…‼︎」
「バカかよ…」
男子がポツリとつぶやいた。
私もちょっとびっくりしちゃった。玲緒くんが天然すぎて…。
「陸くん、俺と手をつないでくれる⁉︎あ、嫌なら無理矢理するからいいんだけどさ」
はぁ⁉︎嫌ならやめるじゃなくて、無理矢理⁉︎
「陸くんの手、おっきいなぁ。これは彼女が嬉しくなる手だね」
もうつないでる…⁉︎
陸はすごく嫌そう。だけど本当は嬉しいんじゃないかな。
「俺のあだ名は闇2号にしてよ!あ、でもオバケ出るかな…⁉︎うーん、じゃあ陸くんの友達1号で!」
「コイツ、結構ヤバいんだ」
怜音が囁く。
玲緒くんが『耳元で囁くってシュチュエーションもいいなぁ…』なんて言ったから、ドキドキしちゃったよ!
「お前の名前は…」
「田岡玲緒だよ、自己紹介聞いてくれよ〜あはは〜」
クラスの空気がピリッとしなくなった。
玲緒くんの天然さに呆れて、みんな笑ってる。
よかった、クラスが和んで。
と思ったけど、休み時間、純恋と漢那がそれぞれどっち派?って私に聞いてきて困った…純恋は怜音くん派、漢那は玲緒くん派らしい。ようやく放課後になった…。
私は2人にせまられてグッタリ。
机につっぷすつもりが、いつの間にか眠りに落ちていたみたいで…。
「水優ちゃん?寝顔が可愛いなぁ」
「玲緒、もう帰ろうぜ」
「ふふっ、陸くん妹に優しいんだから。学校でも優しい雰囲気出せばいいのに…」
私は目を閉じてじっと耳をすます。
可愛いなぁ、なんて玲緒くんは今まで何度も女子に言ってきたはず。だけどほんの少し、胸が痛んだ。
「おやすみ、水優ちゃん」
玲緒くんは私の頭をなでた。
あやうく絶叫しそうになった。
なでるなんて反則ですよ⁉︎もうすでに玲緒くんファンはいるんですから!こんなところ見られたら、ものすごく私が妬まれますけど⁉︎
そんな言葉が出そうになるのを必死でこらえる。
ドアが開く音がして、2人は出て行ったんだとホッとする。
目を開けてみると、教室にはポツンと私だけ残っていた。
やっぱりか。2人が出ていくのを待っていたのに、なんだか寂しくなっちゃう。そういえば、陸はもう家に帰ったのかな。
荷物を持って学校を出た。
「え…玲緒くん⁉︎」
「あっ、水優ちゃん。起きたんだね。ちょっと教えてほしいことがあるんだけどさ、俺、トイレに行ってたら怜音に置いてかれちゃったんだよね。駅ってどっち?」
まさかの迷子!
転校してきたんだから、ちゃんと覚えなさいな。
心の中でツッコミを入れる。
「ええーっと…あそこで曲がって、そこから大きな通りに出るから…あっ、私も駅に行くから、一緒に行かない?」
「いいの⁉︎ありがと〜、助かったよ!」
私も駅で帰るんだよね。
ちょうどよかった。
手があったかいなぁ、なんて思って視線を落とすと。
しれっと私たち、手をつないでた‼︎‼︎
なんだか右手が温かいと思ったんだよね!
「陸くん、サッカー上手なんだね。陸くん、放課後練習してたからさ、俺、声かけてパス練とか、一緒にしたんだ。楽しかったなぁ…」
うっとり話す玲緒くんに私は苦笑する。
陸もそのうち玲緒くんに心を開いてくれたらいいな。そうしたら、私に言えないことも玲緒くんに言えるかもしれないのに。
「そういえばさ、水優ちゃん。俺のこと、玲緒って呼び捨てで呼んでよ。怜音のことは呼び捨てなのに、俺は【くん】って呼ばれてるじゃん?怜音、ずる〜い!」
「あはは…じゃあ、玲緒…よろしくね!」
「俺も水優って呼んで良いかな?」
「いいよ」
気がついたら、駅に着いていた。
あっという間だったな。玲緒といると、時の流れがはやく感じちゃう。
「ありがと、水優!また明日、学校でね!」
玲緒が私と手をはなして、ヒラヒラと手を振った。
「うん、またね」
玲緒と別れた帰り道、右手が寂しく感じた。

「おはようっ」
真っ先に玲緒推しの漢那が玲緒に声をかけた。
「おはよう、漢那ちゃん。今日、昨日と髪型違うね。可愛いよ」
ほら、みんなに可愛いって言っちゃうんだから。昨日言われたことも、きっとみんなと同じように接しただけなんだと思う。…なんだか、寂しいなぁ。
「水優」
ぶっきらぼうな声が聞こえてふりかえる。
「あっ、えっ、怜音!おはよう」
「ちょっ、お前、慌てすぎ。今日、映画行くぞ。クラスメイトになったんだから、陸も許してくれるだろ」
「そう、だね。私、もう陸に行っちゃダメって言われても、無理矢理行くね!」
その話を聞いていたのか、玲緒が、
「俺も映画行く!」
と声を張り上げた。
注目されるから、やめて〜‼︎
「え〜いいな」
漢那が口をとがらせる。
「今度私とも行って〜」
しれっと漢那が玲緒の腰に手を当てると、玲緒自ら漢那のもう片方の手を玲緒の手とつなぐ。…まるで、お姫様と王子様みたい。
あ、そういえば。純恋は怜音が推しだったんだ!
あと数センチ近づいたら、肩が触れちゃう距離に私はドキドキ。
ドキドキする朝の時間が終わって、昼休み。
「純恋、朝怜音としゃべってたのは、普通に友達としてだから大丈夫だよ⁉︎あの、私は純恋の恋を応援してるから」
自分で言った言葉になんだか胸が苦しくなる。
「私は、推しとして大好きなだけだから、なんか、アイドルみたいな『好き』だから、恋愛感情は無し!水優が恋人になっても気にしないよ〜」
純恋はそう言ってニコニコする。
マイペースだなぁ。
「ねぇ聞いて、2人ともっ!玲緒が、今度デートに行こうだって♡」
いいなぁ…ズルっ。
そんな感情がわきあがってしまったことに気がついて、慌てて他のことを考える。
「じゃあ私は、怜音くんでも誘ってみようかな。ダブルデートってのもいいかもね」
純恋がのんびりと言う。
「2人は信頼してるから言うけど、私、実は、陸くん派なんだよね」
…っ⁉︎
陸⁉︎聞いた、陸⁉︎ヒソヒソ話だったけど、陸の推しがいましたよ!モテるんだから〜!
「陸ってなぜか塩対応なのに、女子にはモテるんだよね」
私がそう言うと、2人はニヤニヤしながら顔を見合わせた。
ん?私、なんか変なこと言ったかな?
「どうした?」
「「いや〜?」」
本当になんなの〜⁉︎
「み…モテ…よね」
「思っ…じか…ないのかな?」
「い…なぁ」
目の前でヒソヒソ話をされて、少し気分を害する。
「ごめん、良い話だからさ」
純恋が言って、パチンと手を合わせる2人に、私は苦笑するしかなかった。
「陸っ!」
私は放課後、1人で帰ろうとする陸の背中に声をかけた。
陸はふりむかなかった。だけど、足を止めた。
「あのね、純恋が…陸のこと推しだって」
陸は返事をすることなく、そのまま歩いていってしまった。

【陸side】
俺はバカだ。
はっきりと、自覚している。
友達がいなくて、クラスでういてるなんてな。
今、水優が俺に言ってくれた言葉は嬉しかった。「陸くんはクール」と言われるのが当たり前になってしまっているけれど、俺にだって感情はある。
これは誰にも言ったことがないけど、小1の入学式以来、来ていなかった学校にドキドキしていた。…だから、初めての登校日にあまり寝れかった。授業はあまり頭に入ってこなくて、それからも寝不足が続いた。保健室で毎日を過ごす日々。このとき俺はまだ、友達づくりが遅れたことに危機感を感じていなかった。保健室通いをやめ、友達をつくろうと思ったときは6月。遅すぎた。友達の輪に入るのが怖くなって、俺はクラスで孤立。水優は俺を悪く言う水優の友達の言葉に苦笑する。
誰も俺を助けてくれはしない。
だけど、水優情報によると、俺はモテるらしい。そんなの心底どうでもいい。確かに、告白はされてきたけど、どうでもいい。本当の助けはしてくれないのに、なにが『好きです』だ。ウザすぎてダルい。
その考えを、最近まで変えなかった。
なのに、玲緒とやらときたら、天然すぎて困る…けど正直言って嬉しい、かもな。
純恋、だっけな。俺を推してるだって?マジかよ。俺は恋なんて興味ねぇからな。
「陸くんっ…」
純恋が息を切らしながら、俺へかけよってきた。
「…」
用件を言うまで黙る、それが俺の中でのルールだった。
「水優…陸くんのこと、本当に心配してる。何かあったら何でも言ってほしいって」
「ふぅん」
「ねぇ、余計なお世話かもしれないけど。陸くんは、本当にクールなの?それは素なの?」
図星すぎて、固まる。
今までこんなにも質問してきたヤツはいなかった。しつこく聞いてきたヤツは、思いきりにらみつけて怒りの目で見つめてやる。そうすると、みんな逃げていく。
コイツもにらみをきかせれば、退散するだろう。
「それとかも。本当に、怒ってるの?何か隠してるんじゃないの?」
………。
何も言えない。言葉が出ない。こんなことは初めてだ。
「水優だけには心配かけないで。陸くんは、もっとみんなをたよりなよ。悲しい、辛い、嬉しい、楽しい。喜怒哀楽はみんなある。みんなが認めなくても、私が認める。だから、もっと素の自分を出してよっ…!」
純恋は泣きそうだった。おいおい、マジかよ。俺が泣かせたのか?冗談じゃねぇ。
「陸くん。今思ってること自体も、本心じゃないんじゃないの?…じゃあねっ」
…俺の、本心…って、なんだろう。
「クールで無口」をしてきたせいで、本心まで仮面をかぶっているようになるのか。
下駄箱で、まさかのヤツに出会う。
「陸くんっ、待ってたよ!サッカーしよう?」
「…玲緒」
「あっ、ごめんね!30分くらいしかできないんだ。水優と映画行くんだから!」
映画⁉︎あのときのこと、まだ諦めてなかったのかよ。…もう俺は止めたりしねぇぞ。好きにしろ。
「よかったな」
玲緒がふっと真剣な表情になる。
「ちょっと公園で話せないかな?」
何を話させるのかと、ドキドキしながら玲緒の後を追った。

【怜音side】
ったく、なんだよこれ。
俺は可愛く加工されたプリクラを見て、ため息をもらす。
まぁ、水優と玲緒と行った映画は最高だったけどな。
あのとき、水優がプリクラ撮りたい!なんて言うから…玲緒はノリノリ。俺は渋々って感じだった。
玲緒はノリが良すぎて、水優と同じ…いわゆる、ギャルピをしていた。俺は笑顔もつくらないのに、こんなに可愛く加工されすぎてる。これじゃ俺が女だって言ってもバレねぇかもな。
心の中で苦笑しつつ、家のドアを開ける。
「遅い!」
「うおっ⁉︎」
玲緒が仁王立ちしながら…笑顔で告げた。
「水優を送ってくるからって…ずるいぞ!」
「ずるいって…」
玲緒から何気なくスッと目を逸らすと、視界にグワっと入ってくる。
「な、なんだよ」
「わかってる。怜音も、水優をねらってるよね?いい?これは、俺たち双子の勝負だ!うらみっこなしだ!どっちが水優をとっても、お互い応援しよう!じゃあ!」
玲緒は自分の部屋に戻ったが、俺は玄関に立ちつくしたまま、ポーッとしていた。
水優をねらってる、か。
ふん、良い度胸だ、兄貴!俺がぜってー水優をとってやる。だけど、水優が兄貴を好きなったら素直に応援してやるよ。
たしかに水優は素直で、ちょっとバカで、すぐに状況を受け止められなくて、陸を影から応援してやってる。なんかそんな水優を、守ってやりたくなるんだ。…これって、恋心ってヤツなのか?
自分自身に問いかける。
「何やってるの、怜音。はやく中に入りなさいよ」
母さんの声が聞こえてようやく、俺は自分の部屋に戻った。
3人でとったプリクラを、携帯に隠した。
これならバレないし、ずっと持っておける。
ベッドにダイブして、天井を見上げる。水優、俺は陸を応援する。水優の兄だからな。あのときも相談してくれた。兄の気持ちがわからないって。俺も玲緒の笑顔に隠された秘密を探ってやる。
そおーっと音を立てずに玲緒の部屋をのぞく。めずらしく、玲緒が真剣な顔をしている。
手に持ってるのは、写真か?
キュッと目を細めて写真を見る。
…俺は、とんでもないものを見た。

【玲緒side】
今一瞬、部屋のドアが開いた気がするけど、気のせい?
俺は写真を見て確信する。やっぱり、そうだ。
転校する前の中学に、陸くんと水優はいた。
最初に撮った記念写真。転校する前にと先生からもらったものだ。
『ちょっと公園で話せないかな?』
俺が陸くんに声をかけたのが今日なんて、なんだか信じられない。
『…』
陸くんは俺の後を追っている間、ずっと無言だった。
『陸くんって、もしかして、〇〇中学校にいた?』
陸くんの顔がピキッとひきつった。
『い、いねぇよ!』
取り乱してる。
スマホの写真を見せると、さらに表情がこばわる。
『よかったらさ…陸くん、教えてくれない、かな…?』
『誰にも言わないなら』
陸くんは、ゆっくりと話し始めた。
『俺は小1の頃から…』
クールをよそおっていたこと。告白されても、助けてくれない人は嫌いだったということ。
『そんなとき、双子は注目されてずるいって言ってるのを、聞いちゃったんだ。それはめずらしく、俺の悪口じゃなくて、水優にむけてだったから。お兄ちゃんを守らないダサい人だって。双子だからって調子に乗ってるって。注目をあびるのはいつも双子だって…』
陸くんは、苦しそうに話してくれた。
『水優は、優しい性格だから…言われやすいんだ。双子だし…。しょうがないと思っても、悪口を聞く機会が多くなって…俺が原因なら、他の学校へ行って、やり直そうと思ったんだ。だけど、『俺』の仮面をやぶるのは難しかったけどな。俺が目立つのが嫌だって言って転校をしたんだ』
俺は兄妹愛に感動した。
でも、陸くんが辛そうで。クールで無口をよそおって。自分が目立つのが嫌だと言って転校して。
俺はますます、笑顔でいないとダメだと感じた。…怜音は俺の笑顔の裏を探っているけれど。
『…陸くん。それ、水優に伝えても良いと思うけど、どうかな?』
『そしたら、水優は自分を責めるから…絶対にダメだ。それより玲緒、お前もいつも笑顔すぎて怖い。俺だって秘密を話したんだから、玲緒も話せよ』
まさか、そんなことを言われるとは思わなかった。
『俺は、笑顔でいないとダメなんだ…』
その後のことを思い出したくなくて、写真を置く。
水優が悪口を言われるなんて。女子ってよくわからない。恋するだけが女子じゃないんだな。「うわ、もうこんな時間」
時計の針は10時をさしている。
俺は布団に潜り込んだ。

【水優side】
中学生で、水泳の授業があると知ったときは、びっくりした。
でも、嬉しい。私は水泳が得意だから。
「陸くん。あの、よかったら友達になってくれる?」
勇気をふりしぼって純恋が声をかけている。
「俺でよかったら」
⁉︎
陸、どうしちゃったの?
無愛想な雰囲気がガラッと変わった‼︎
「ありがとう!陸くん、私ね、サッカー観戦が好きなの。だからよかったら…あの、その…試合に呼んでくれない、かな…?」
「考えとくよ」
純恋が陸に恋をしてると思うのは、私だけ?
頬が赤くなってるよ。
「水優、ちょっと」
「はいっ」
玲緒に真剣な表情で呼ばれ、後を追う。
「ここなら誰も来ないよね」
非常階段に玲緒は腰をおろす。
「水優、あのね…傷つくこと言っていい?」
なんだろう。
玲緒も苦しそうに見えるのは気のせいかな。
「転校の理由…陸くんが目立つのが嫌だったんじゃないんだ」
どういう、こと…?
「水優が悪口を言われてて、しかも陸くんを守れないダサいヤツだって。自分が原因なら、他のところでやり直そうって思ったらしいんだ」
そんな…転校が、私のためだったなんて。
うそだ。陸、そんなことを思ってたなんて。
私は放心状態になった。
「陸くん、呼んでくる」
玲緒の言葉も上の空。
ガクリとひざをついた。信じられない。
「玲緒…言うなって言ったよな?」
遠くから声が聞こえる。
「ごめん、でもどうしても陸くんが辛い思いをしてきたことを伝えたかったんだ」
「水優…大丈夫か?」
陸の声が背中にとどいた。
「うん。…ずっと陸が目立つのが嫌だからって思ってきてごめん。妹なのにお姉ちゃんみたいな態度とってごめん」
「水優…」
玲緒は去っていき、2人きりにしてくれた。
「妹なのにとか関係ない。だって俺らは同い年の、双子だから…好きだ。水優のことが」
「うん、私も。陸が好きなの。でも、真正面から陸を守れない自分がバカみたい…自分を1番に守ってる…見て見ぬふりってやつだね。傷ついてる人は、目の前にいるのに」
「俺はそれでも水優から愛を感じてたよ。これからは俺も隠し事はしない。水優も隠すなよ。だって、俺たちは、世界でたった2人の双子なんだから」
ぶわっと涙があふれた。
陸とこんな感じでわかりあえる日が来るとは思わなかった。
玲緒のおかげだな。陸が心をゆるせる人がいたから私たちはわかりあえた。
陸がニヤリと笑う。
「泣いてるところ悪いんだけど。さっそく水優、俺に隠し事してるだろ」
本当に隠してないんだけど。何?
「好きな人いるだろ」
「す、す、す、好き⁉︎な人…⁉︎」
パッと頭に浮かんだのは、玲緒と怜音の顔。…私、どっちが好きなんだろう。
「え、陸と水優…⁉︎」
声がしてふりむくと。
「乃有(のあ)⁉︎」
乃婀は小学生の頃の友達。
中学受験するとか言ってたっけ。まさか、ここで再会するとは…!
陸を見ると、険しい顔をしている。
気まずいのかな。
「久しぶり〜‼︎」
「もう、クラスで会ってたけど」
「あ、そっか!気がつかなかった〜!」
乃有、小学生の頃は元気だったけど、中学生になったからかな?クールでカッコいいって感じになってる!
そこで、チャイムが鳴る。
私は乃有と会えたことが嬉しくて、上機嫌で席に着いた。


【陸side】
まさか、乃有に会ってしまうとは。
乃有は…陰で水優の悪口を言っていたひとりだった。
ここは玲緒に相談するか…?
チャイムが鳴り、席で俺は考えていた。
玲緒も俺が考え事をしていることに気がついたのか、休み時間になるとすぐに話しかけてきた。
「どうした?水優と話し合い、上手くいかなかった?」
「あそこで話そう…」
俺は非常階段の手すりにこしかけながら、事情を説明した。
「悪いな、俺たち3人の問題なのに…」
「大丈夫!怜音に乃有と話しといてって伝えておいたから!」
なんかズレてるような。
「まかせて、怜音が仲良くなって、ちょっとその話題にもふれてみるから」
グッと親指をつきたてた玲緒だけど…聞き間違いか?『怜音』って言ってたような気がする。
「怜音は、意外とその気になれば仲良くなってくれるから」
やっぱり怜音って言ってたよ!
天然を通りこしてバカかよ?
玲緒との話は、今日はここで終わった。
翌日。
水優は乃有とも喋りだし、漢那と純恋が話したい、という目で見つめている。
マズイ方向にいかなければいいんだけどな…。
水優はクールでカッコいい、とか思ってそうだけど、あれは絶対水優を鬱陶しく思ってたに違いない。
俺は『女子』がなんなのか、なんとなくわかってきた。
「乃有、今って…」
怜音が乃有に声をかけてくれる。
「あ、大丈夫だよ!水優、お友達と喋ってきて〜!」
乃有、完全に怜音に恋してるな。
そう思ったら、漢那が真剣な表情で水優に近づいていく。
「陸くん!陸くんってさ…」
「玲緒、陸って呼び捨てでいいから」
「わかった!陸ってさ、最近背、伸びた?」
たしかに…俺、変わってきてるんだ!
「かもな」
俺たちは正反対って言われ続けたけど…水優と話したとき、目線が同じだった。
成長期だ…!
今はクールキャラを演じなければ、という決まりも自分の中で消えた。なにも辛くない。
俺も変わりたい。正反対と言われないように…!
俺は決意を新たにした。


【怜音side】
『怜音、乃有っていう女子と仲良くしてくれないかな?』
そんなお願いを玲緒にされて、最初は嫌がった。けど、水優のためならしかたない。
そう思って渋々引き受けた。
『わかったよ』
水優と話しそうになったら俺が間に入って。その繰り返し。
正直言ってしんどい。
もう、気持ちを伝えてしまおうと思う。
俺は放課後、水優を呼び出した。
「怜音…どうしたの?」
俺は勇気をかき集めて、告げた。
「俺、水優のこと、好きなんだ。恋愛ってイミで」
水優は黙ったまま、動かない。
考えているようにも見える。
「…怜音。ありがとう。だけどね…ごめんなさい。私、好きな人がいるの」
「わかった。だけど、これからも友達でいてくれ」
「うん!」
水優は俺に笑顔を向けた。そして、去った。
スッキリした。結果は残念だったけど、気持ちを伝えられてよかった。
床のシミを見て気がつく。
…俺は、泣いてるんだ…。

【玲緒side】
「玲緒〜、どこ行こう?」
朝の時間、漢那が甘ったるい声で言って、俺を見つめる。
デートがしたいのか知らないけど…。
「俺、好きな人がいるから」
サッと漢那が青ざめた。
水優が哀れな目で俺を見てる。
間違った選択はしてないはずだ。
無理だ。マジで無理。
俺は水優に本気で恋をしている。それを見ないようにするなんて、無理。
昼休み、校庭の花壇の前で待ち合わせて、水優を呼んだ。
「水優、俺、水優が好き。俺、水優に恋してます」
水優は泣きそうな目で俺を見た。
「私もっ、玲緒が好き」
その話には、続きがあった。
「でも、昨日、怜音にも告白されたの。だけど…玲緒が好きなんだって気がついて。どうしよう…」
「きっと怜音は立ち直れる。乃有といい感じだから。あとね、ごめん。これも陸くんから口どめされてたんだけど、乃有は水優のことを悪口言ってた人だったんだ」
「そっか…私も隠してたことがあって。漢那に、『私、玲緒のこと真剣なの。正々堂々勝負しよう』って言われた」
だけど、私、今日から玲緒の彼女になれたんだよねって水優は笑った。
「私、乃有とか漢那に負けないよ。これからも」
「うん。俺も負けないでほしい」
俺たちは小指をからめて、約束をした。
「あ、そういえいえば。玲緒って泳げる?」
「えっ…」
海で溺れかけたことが原因で、泳ぎたいと思わない。
「私、教えてあげる!そこそこ得意だから」
「そこそこじゃなくて、普通に『得意』でしょ」
「そうかも。玲緒もさ、私には笑顔じゃないときがあってもいいよ。迷惑かけないように、ずっと笑顔でいるの、私気がついてた。だから、私にあたっていいよ。怒っていいよ。私も怒られたらカチンとくるかもしれないけど、心の中では好きだって思ってるから」
優しい眼差しで告げた水優に、俺は無言でうなずく。
苦しい人がいるけど、俺は何も苦しくない。だから、ずっと笑顔でいないとって決めつけてたんだ。
「ありがとう」
俺たちは笑い合った。


【水優side】
私、初恋が叶ったんだ。嬉しいなぁ…。
あれから1ヶ月。
陸は純恋と、怜音は乃有と恋人同士になった。漢那は今は好きな人を探してるんだって。
今日は、トリプルデート!
乃有とも仲直りした。
『双子ってやっぱりそこらへんの人より目立つでしょ…いいなぁって思ったのが、だんだん妬みに変わっていっちゃって。本当にごめん』
って頭を下げてくれた。
水族館でガラスに手をつく。
髪型も、服装もちょっと頑張ったよ。
服はお値段が高いブランドものを買ったんだ。
「今日の水優、お姫様みたい」
玲緒にそう言ってもらえた。
この先何があるかわからないけど、お互い助け合おうねって約束した。
お互いに手をつないで、微笑みあった。