煌々と明るい大広間の中で、私は礼儀作法(マナー)通りにダンス終わり、スカートの裾を持ち頭を下げて礼をした。

 そして、ダンス相手である男性へとお礼を言った。

「ダっ(ダンス楽しかった)っです……(誘っていただきまして)あ、ありがとうっ……ございましたっ……」

 ああ……しまった……また、私……こんな簡単なお礼さえも、上手く言えない。

 緊張が過ぎてどもってしまった私がじわっと涙のにじんだ目で見れば、ダンス中もこんな調子で会話が全く弾まず、つい先程熱心にダンスに誘ってくれたはずの長身の彼には、今ではもうしらけた空気が漂っていた。

「アヴェルラーク伯爵令嬢……こちらこそ、楽しいダンスをありがとう。それでは、良い夜を……」

 紳士的なクラーク卿はにこやかで礼儀正しい態度を崩さず、それでも「俺たちは、あまり合わないようだ」というはっきりとした意志を行動で伝えるかのように、ダンス後の会話も楽しむことなく去って行った。