「誰か! 誰かいませんか!」

 どれくらい時間が経っただろう。
 小さい窓から外を見ると、すっかり暗くなっていた。
 たまに扉を叩いて声を上げるけど、誰もこない。
 そりゃそうだ。この倉庫はほとんど使われていないし、近くを通る人だって滅多にいないんだ。

「さ、さすがに、一晩中このままってことはないよね? もう少ししたら、誰か開けに来てくれるよね?」

 そうは言ってみたけど、本当のところはわからない。
 しかも、例え草野さんたちが開けに来てくれたとしても、その後ろくなことにならないのは想像がつく。

「どうしてこうなったんだろう……」

 こんなことになるなら、草野さんと実行委員を代わってあげた方がよかった?
 それとも、吉野くんと一緒にいるのが間違いだった?
「吉野くん、今頃どうしてるかな?」

 草野さんたち。吉野くんには、私が勝手に帰ったって言ったんだっけ。
 吉野くん。なんて思うかな?
 怒る? 呆れる? おかしいって思って、探しに来てくれないかな?
 一瞬そんな期待をするけど、日向ちゃんのお迎えもあるし、もうとっくに帰っているよね。
 私がいないせいで作業が遅れて、迎えにいくのが遅くなったりしてなきゃいいけど。
 なんて、こんな時に考えるようなことじゃないよね。
 けどそうでもして気を紛らわせなきゃ、不安で心が潰れそうだった。

「吉野くん。助けて….…」

 堪えていた涙が、微かに零れる。
 吉野くんがやって来て、扉を開けてくれたら。
 ありえないってわかってるのに、そんな想像をしてしまう。
 それくらい、今の私は限界だった。

「誰か! 誰かーーーーっ! …………吉野くーーーーん!」

 吉野くんに、助けにきてほしかった。私はここにいるよって、気づいてほしかった。
 喉の奥から込み上げてくる痛みに耐えながら、何度も何度も叫ぶ。
 その時だった。
 ──────坂部!
 ──────坂部!
 なにこれ。幻聴?
 扉の向こうから、微かに吉野くんの声が聞こえたような気がした。

「坂部! いるのか! いたら返事しろ!」

 今度は、もっと大きな声が聞こえてきた。
 間違いなく、吉野くんの声だ。

「吉野くん! ここ! 私、ここにいるよ!」

 どうして吉野くんがいるのかはわからない。けどこれを逃したら、助かるチャンスはないかもしれない。
 そんなことにならないよう、必死に叫んだ。
 すると今度は、扉のすぐ近くから声が届く。

「坂部! お前、そこにいるのか!?」
「えっ、えっと────か、鍵がかかってて、ここから出られないの!」
「わかった。職員室から鍵もってくるから、少しだけ待ってろ!」

 それからすぐに、駆けていく足音が聞こえてきた。
 そして待つことほんの少し。カチャリと音がして、扉が勢いよく開かれた。

「坂部!」
「吉野くん!」

 嘘じゃない。夢じゃない。本当に、吉野くんが助けにきてくれたんだ。
 その瞬間、今までポロポロと流れていた涙が、一気に溢れ出した。

「う……うぅ…………うわぁぁぁぁん!」

 怖かった。すごくすごく怖かった。
 吉野くんにしがみつき、子どものように泣き続ける。
 吉野くんはそんな私を支えながら、優しく背中をさすってくれた。

「大丈夫。もう大丈夫だから」

 そのまま、どのくらいすぎただろう。たくさん泣いて、たくさん叫んで、声も出なくなったところで、ようやく少しだけ落ち着く。

「ご、ごめんね。服、汚れてない?」

 しがみついてわんわん泣いたもんだから、当然吉野くんの服は濡れちゃっている。
 それに、あんなにギュッと密着してたんだ。今更ながら恥ずかしくなってきた。

「そんなのどうでもいい。それより、なんでこんなことになったんだ?」
「それは……」

 尋ねられて、答えに困る。
 草野さんたちを庇いたいわけじゃない。けど、怖いの。
 本当のことを言って、ますます怒らせたらどうしよう。そう思うと、また体が震え出す。

「えっと、それは……」

 だけど、なかなか返事をしない私を見て、吉野くんは言う。

「もしかして、草野に何かされたとか?」
「あっ…………」

 どうして知ってるの!?
 驚く私を見て、吉野くんは何かを察したらしい。
 ぽつぽつと、何があったか話し始めた。