幼い頃ここでよく二人で遊んでいたのを昨日の事のように思う。
ゆっくりとブランコに腰を下ろした真斗を一瞥し、私も隣のブランコへ腰掛けた。
しかし、ブランコというものは座ると漕ぎ出したくなるのは何故だろう。
私は気の赴くままにブランコを漕ぎ始めた。
勢いに乗ってきたあたりで、スカートがふわりと浮かび始めたので、自重して控えめにこぐことにした。
キーキーと古いブランコが鳴く。
嬉しくて鳴いているのか、悲しくて泣いているのか。
心地よい揺れが、少しこわばっていた心をゆっくりとほどいていく。
「賭け、だったんだ今回のは」
ゆっくりと真斗が口を開いた。
「東は強豪校だけども、うちでも十分勝てる可能性はあると思ったんだ」
口には出せないが、今日の試合ではあまりそうは見えなかったが。
「洞田たちもポテンシャルは高いんだ
ただ、練習に来ないから上手く連携が取れないし、苦手なところを攻められると、押されて何も出来なくなる
だから、東に勝って、自信をつけて、やる気になってくれればいいなと思ってたんだ」
なるほど。そういう賭け、か。
「でも、そうはいかなかった
瀬賀那津という、べらぼうに上手いやつが、
増えてたからな。あれは想定外だ」
「増えてた?」
「あんなやつ1年の時はいなかったし、2年の春大の時もいなかった」
「そう、なんだ…」
「あーあ、陽菜に飯奢ってもらえなくて残念」
驚くほど明るい声で言い放った言葉の語尾が少しくぐもった。
少し窮屈そうにブランコに座る肩が震えている。
「俺、ダサいよなあ…、賭けとか言ってさ
ぼろ負けして……」
過去に体調を崩して部屋から出てこなくなった真斗の姿と重なってたまらなくなる。
「ダサくなんかないよ!いつでもかっこいいよ真斗は!」
勢いよく立ち上がったので取り残されたブランコが揺れている。
下を向いたままの彼の頭。普段見上げるばかりで見ることの出来ないつむじが見える。
「ご飯なんていくらでも奢るよ、」
髪を撫でようと手を伸ばすと、力なく手を掴まれた。
「汗かいてて汚いから」
「汚くなんかない」
真斗の手を振り払って、ゆっくりと髪を撫でる。
彼はしばらく黙ったあと、いつもより甘やかな瞳でこちらを見上げた。不意にドキリとする。
「陽菜、俺頑張ったよね」
「うん」
「俺、かっこよかった?」
「うん」
真斗は首を激しく縦に振る私を見て少し吹き出して、突然立ち上がった。またいつものように私の髪をくしゃりと撫でて
「陽菜がそう思ってくれたんならいいや」
とつぶやいた。背の高い真斗の顔は見えなかった。

