2階にはもう誰も残っていなくて、1人だけいるのは少し恥ずかしかったので私は下駄箱のところで真斗を待っていた。

騒がしい声がだんだんと近づいてくる。
聞きなれない声に耳を傾けると、
「勝ててよかったよなー」と聞こえたので東の生徒だと言うことがわかった。

私は思わず靴箱の影に身を隠した。
なぜそうしたかは分からない。
理由をつけるのなら、何となく、だ。

東の生徒が校門から外に出ていくのを一瞥し、ため息をついた。

しばらくして、また騒がしい声が聞こえてくる。
「東に勝つとか無理だよなー!最初から無理だって俺らは言ったのに、冠城が受けたいとか言うからさー!あーあー!試合断っときゃ良かった!」

この声は同じ学年の洞田くんだったか。

私はまた咄嗟に体を隠した。

洞田くんと何人かが笑いながら校門を出ていく。



真斗は大丈夫だろうか。

今の話をもし真斗がきいていたら。
そう思うとゾッとした。

しばらくたって、静かにこつんこつんと階段を下ってくる音がした。

ゆっくりとゆっくりとこちらに近づいてくる。
覇気のない足音。ますます心配になった。

「真斗!」

「陽菜、もう遅いのに待っててくれたの?
えらいねえ陽菜は。優しい子だねえ」

いつもより甘ったるい声。

彼は私を見た瞬間、わしゃわしゃと私の頭を撫で回した。

髪がぐちゃぐちゃになるのなんて気にならなかった。

ただ彼の表情を、本当の感情を見抜くために、じっと顔を見つめていた。

「なに?なんかついてんの?」

「ううん」

真斗は不思議そうにこちらを見つめ返す。
それから、少し笑った。

「さっき洞田たちが言ってた話のこと?」

「え」

彼は聞いていたのだ。私はうんともいいえとも言えずどぎまぎする。

「あれ、いつもだから慣れてるんだ」

慣れてる?嘘つき。じゃあなんでそんな顔するの?

私は質問攻めにしたい気持ちを何とか飲み込み、「帰ろうか」とただ一言そういった。