ピンポーンと呼び鈴を鳴らす。

「はーい、あ、芹那ちゃん!……って覚えてないんだっけ」

出てきたのは、きれいなお姉さんだった。

「もしかして、秀一のお姉さん……ですか?前にお姉さんがいることを聞きました」

「そうだよ、久しぶり。色々あったみたいだね、聞いたよ」

いろいろ……か。

今の私は、クラスメイトの名前も、秀一のことも、お姉さんのことも、何一つ覚えていない。

覚えてるのは、お父さんとお母さんのことだけ。

他に覚えていたのは、学校までの通学路。

なんでこんなことになったんだろう。

あの日、何があった…?

秀一はあの日私を助けた。

運んでくれた、きっと何か見てるはずなんだ。

「秀一が、助けてくれたみたいなんですけど、何も覚えてないんです、その日のことも秀一のことも」

「ごめんなさいね、なんて声掛けたらいいのか」

記憶が無くなった私は、私じゃないのだろうか。

「大丈夫です、早く記憶を取り戻してみせます」

「でも本当、何か困ったことがあれば力になるわ、なんでも言ってちょうだい」

きっと、私はお姉さんには頼れない気がする。

今頼れるのは秀一だけ。

「芹那、ごめんお待たせ」

お姉さんと話していると、秀一が玄関まで出てきた。

「お姉さん、ありがとうございました」