陽太が生後三か月を過ぎた頃に、「児童館に乳児専用の時間帯があるらしいから、みんなで行ってみない?」という愛理から誘いのメッセージを受け取った時に、ようやく自分の家族に襲った不幸を伝えることができた。その時はまだ心の整理が不完全だったから、迷惑を掛けてしまうのが心配で、会うことはしなかった。長めの里帰りができ、育児に協力してくれる旦那様がいる二人。彼女らとの境遇の差を目の当たりにはしたくなかった。でも、それでも変わらずメッセージのやり取りは続けていた。
「これって首が座ったって言っていいのかな?」「うちも今そんな感じだよ」「今の月齢だとこんなものなんじゃない?」まだ微妙に安定しない子供の首を心配して、互いに動画を送って確認し合った。初産同士、悩むポイントはほとんど同じだったから、二人の存在はとても心強かった。
ただ、夫を亡くしたばかりの優香とはやはり連絡し辛いらしく、二人だけで連絡を取り合って頻繁に会っているのはグループメッセージの雰囲気で何となく察してはいた。それは優香が逆の立場だったとしても仕方ないことだと分かっている。
「あれ、陽太君も保育園に入れるの?」
ソファーの上に置きっぱなしになっていた入園グッズに気付いた愛理が、トーンを落とした声で聞いてくる。和室に敷いた子供布団では陽太が少し寝汗をかきながらも静かに眠っていた。
数日前に縫い終わったばかりの絵本バッグや上靴入れをソファーから退けて、優香はママ友達に席を勧める。二人は慣れた手付きで抱っこ紐を外して子供を縦抱きしたり膝の上に座らせてあやし始めた。
「うん、マリちゃんも六カ月から入れるんだよね?」
「あー、うちはまだ保活中……近くの園には乳児の空きが無いらしくて」
「え、愛理さん、育休あまりないって言ってなかった?」
ナオに歯固めの玩具を手渡しながら、胡桃が驚き顔で聞き返す。
「保育園が見つからなければ延長もできるんだけど、復帰後のことを考えるとね……」
「確かに、休みが長いと戻りにくそうだよね。そっか、うちはどうしようかなぁ。妊娠が分かってすぐ辞めちゃったし、しばらくは専業主婦のままかな」
母親達の話し声に目を覚ましたのか、和室の方から陽太が小さくグズり始める声が聞こえてくる。優香は慌てて駆け寄ると、汗でじっとりと湿った小さな額をガーゼで拭った。
「ほら、ナオ。陽太君、起きたって。久しぶりーって」
「わ、陽太君、めちゃくちゃ背伸びてない?」
子供を抱っこして駆け寄って来た二組に、陽太は不思議そうに目をぱちくりさせていた。子供布団の上に三人並んで座らせると、優香達はスマホで我が子の写真を撮り始める。まだ安定感のないお座りはそう長くは続かず、思い思いにハイハイしたり転がり出す子供を追いかけながら、優香は声を出して笑う。こんなに笑ったのは、いつぶりになるんだろう。
「これって首が座ったって言っていいのかな?」「うちも今そんな感じだよ」「今の月齢だとこんなものなんじゃない?」まだ微妙に安定しない子供の首を心配して、互いに動画を送って確認し合った。初産同士、悩むポイントはほとんど同じだったから、二人の存在はとても心強かった。
ただ、夫を亡くしたばかりの優香とはやはり連絡し辛いらしく、二人だけで連絡を取り合って頻繁に会っているのはグループメッセージの雰囲気で何となく察してはいた。それは優香が逆の立場だったとしても仕方ないことだと分かっている。
「あれ、陽太君も保育園に入れるの?」
ソファーの上に置きっぱなしになっていた入園グッズに気付いた愛理が、トーンを落とした声で聞いてくる。和室に敷いた子供布団では陽太が少し寝汗をかきながらも静かに眠っていた。
数日前に縫い終わったばかりの絵本バッグや上靴入れをソファーから退けて、優香はママ友達に席を勧める。二人は慣れた手付きで抱っこ紐を外して子供を縦抱きしたり膝の上に座らせてあやし始めた。
「うん、マリちゃんも六カ月から入れるんだよね?」
「あー、うちはまだ保活中……近くの園には乳児の空きが無いらしくて」
「え、愛理さん、育休あまりないって言ってなかった?」
ナオに歯固めの玩具を手渡しながら、胡桃が驚き顔で聞き返す。
「保育園が見つからなければ延長もできるんだけど、復帰後のことを考えるとね……」
「確かに、休みが長いと戻りにくそうだよね。そっか、うちはどうしようかなぁ。妊娠が分かってすぐ辞めちゃったし、しばらくは専業主婦のままかな」
母親達の話し声に目を覚ましたのか、和室の方から陽太が小さくグズり始める声が聞こえてくる。優香は慌てて駆け寄ると、汗でじっとりと湿った小さな額をガーゼで拭った。
「ほら、ナオ。陽太君、起きたって。久しぶりーって」
「わ、陽太君、めちゃくちゃ背伸びてない?」
子供を抱っこして駆け寄って来た二組に、陽太は不思議そうに目をぱちくりさせていた。子供布団の上に三人並んで座らせると、優香達はスマホで我が子の写真を撮り始める。まだ安定感のないお座りはそう長くは続かず、思い思いにハイハイしたり転がり出す子供を追いかけながら、優香は声を出して笑う。こんなに笑ったのは、いつぶりになるんだろう。


