飲み終わったカップはカウンターの上に置いておいてください。
 そうと言い置いて、イヴはさっさと店に背中を向けた。
 ジュニアはその小柄な後ろ姿をぽかんとした顔で見送る。
 ここでようやく手に取ったカフェモカは、猫舌の彼にはちょうど飲み頃になっていた。
 甘いチョコとホイップクリーム、それからほろ苦いコーヒーが口の中で絶妙に混じり合う。
 ジュニアはカウンターにもたれてそれを堪能しつつ、イヴが残していった言葉を頭の中で転がした。
 
「裏山になんて、いったい何をしに行くんだろう……?」

 確かに、アンドルフ城の裏にはなだらかな山がある。
 何の変哲もない山だ。
 特徴と言えば、中腹にだだっ広い草原があるだけの──と、ここまで考えて、ジュニアははっとした。

「──まさか」

 現在の時刻は、間もなく十七時半というところ。
 イヴが裏山の中腹にたどり着く頃には、十八時も目前となっているだろう。
 そんな夕闇迫る中、人気のないだだっ広い草原で、因縁のある二人がすることといえば……


「──決闘? イヴさんが、ルーシア嬢と決闘ぉお!?」