愛する妻を亡くし、幼い息子を連れて傷心の旅に出たロバート・フォルコが一年後、臍の緒も取れていないような赤子を抱いて戻ってきた時には、アンドルフの王宮は騒然となったものだ。
 その赤子が、イヴである。
 妻の死後一年足らずで子供を作ってきたロバートに対し、あまりにも薄情ではないかとメイソン公爵家が猛反発。
 イヴを国外へ養子に出せという要求を跳ね除けたことから、かの家からの経済的支援も縁も切られてしまった。
 とはいえ、王家やマンチカン伯爵家といった極太の後援者がいたため、フォルコ家としては痛くも痒くもなかったのだが。
 とにかく、イヴに対するメイソン公爵家の心証はすこぶるよろしくない。
 加えて……

「どうせあなた、相変わらずウィリアム様を煩わせているのでしょう?」

 イヴに視線を戻して、ルーシアが高圧的に言う。
 第一王子ウィリアムが、あからさまにイヴを特別視していること。
 その事実が、メイソン公爵家の苛立ちに拍車をかけていた。