時刻は十五時半を少しすぎたところ。
 三階大会議室から大階段を下って一階まで戻ってきたイヴは、同行したウィリアムと顔を見合わせた。
 『カフェ・フォルコ』の前が何やら騒がしいのだ。
 
「あー、あなた! いつぞや見た愛想のカケラもない男じゃない!」
「うちは愛想で商売しているんじゃなくて、コーヒーの味で売ってるんだよ。俺の面に文句があるならとっとと帰れ」
「はー? その接客態度はどうなの? っていうか、イヴちゃんをどこへやったのよ!?」
「イヴには使いを頼んでいる。あの子に会いたいのなら、出直してくるんだな」

 カウンターに向かって息巻いているのは、先日一緒に浮気男を振って意気投合した侍女、リサとヴェロニカである。
 それぞれキツネ族とヤマネコ族の先祖返りである二人の頭の上には、今日もフサフサの三角耳が立っていた。
 一方、常連客である彼女達を前にして、にこりともしないのが……

「リサさん、ヴェロニカさん……愛想のない兄ですみません」
「あっ、イヴちゃん! わわ、ウィリアム様も!?」
「って、兄? これが!? ぜんっぜん、似ていないっ!」

 イヴの兄、オリバー・フォルコである。
 かれこれ一月以上留守にしていたが、先ほどひょっこりと帰ってきたのだ。
 確かに、イヴが黒髪なのに対しオリバーの髪はプラチナブロンドで、兄妹の印象はまるで違っている。
 全然似ていないというリサの指摘に、ウィリアムは一瞬顔を硬らせたが、オリバーはフンと鼻で笑った。
 そうして、彼はカウンター越しに腕を伸ばしてイヴを引き寄せると、頬同士をくっ付けて言う。