話は三百年前──フォルコ家の始祖がまだ王子の位にあった時代にまで遡る。

「フォルコ殿下は珍しいお茶を淹れると評判でして、まあ、それがコーヒーだったのですが……わたくしめも飲んでみたくて仕方がなかったのです」
「しかし、彼の側には天敵たるマンチカン伯爵がベッタリくっ付いていたため、声をかけられなかった、と?」

 ウィリアムの言葉に、ええ、はい、まあ、とラテは歯切れが悪く頷いた。
 しかし、三百年前のラテは無駄に思い切りがよかったらしい。
 フォルコ王子の留守を狙って研究室に忍びこみ、彼の真似をして自分でコーヒーを淹れようとして大失敗。あろうことか、棚に並んだコーヒー豆のビンをことごとく割ってしまったのだという。
 それを聞いたイヴとウィリアムは同時に天を仰いだ。
 
「やっちまいましたね」
「やっちまったな」
「ええ、はい……やっちまいましてございます」

 フォルコ王子はラテを責めることはなかったが、苦労して集めたコーヒー豆がダメになってしまったのにはさすがに消沈した。
 それを見て大激怒したのが、後に第十四代アンドルフ国王となる弟王子とマンチカン伯爵だ。
 ネズミを処刑せよ! いいやボクが食ってやる! と二人が息巻くのに、フォルコ王子は慌ててラテを王宮から追い出したのだという。
 そんな当時に思いを馳せたのだろう。
 ラテは黒々とした丸い瞳を潤ませて語る。