店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~

「お取り込み中、申し訳ありませんが──マンチカン伯爵閣下。飲み頃です。これ以上冷めると、おいしくないです」
「はあーい。──おい、ジュニア。せっかくだから君も何か注文しろい。じーちゃんは、可愛い可愛いイヴが淹れてくれたカフェオレをじっくり味わって飲みたいのですぅ!」
「ええー……もう、しょうがないなぁ。イヴさん、俺、前に頼んだのと同じやつもらえますか?」
「かしこまりました」

 猫紳士の名は、ルードリッヒ・マンチカン。イヴが口にした通り、彼は伯爵の地位にある。じじいもじじい──御年五百歳を超える筋金入りの猫又だ。
 猫耳が付いた少年ジュニアはその孫……ではなく、ひ孫のひ孫のそのまたひ孫の……と系譜上ではずっとずっと下にあるものの、面倒なので孫呼びされている。
 彼は若草色のジャケットの胸ポケットを探って銀貨を一枚取り出すと、カウンターの上に置かれた料金箱に入れた。
 『カフェ・フォルコ』のコーヒーは一律銀貨一枚。これは、紅茶一杯と同等の値段である。
 常連のマンチカン伯爵とは違い、ジュニアが最後にコーヒーを注文したのはもう何週間も前のことだが、イヴは記憶を手繰るそぶりもなく早速カップを手にとった。
 しかしふと、カウンターの前に立っている頼もしい背中を見上げて口を開く。