「あんなに……あんなに、挽いた豆はすぐに飲んでくださいって言ったのに! しかも、あろうことか古いコーヒーを初めての人に飲ませるだなんてっ!!」

 ダミアンのコーヒーの扱いに、イヴは怒り心頭である。
 挽いたコーヒー豆は時間が立つほど味も風味も劣化してしまう。
 リサが酸っぱいと感じたのは、酸化が進んでしまっていたからだろう。
 酸化したコーヒーは胃に負担をかけ、お腹を壊す原因にもなりうるのだ。

「あらー、いつもニコニコしているイヴちゃんのそんな顔、珍しいわね」
「やだ、この子可愛い……推せるわ。前にここで見かけたのは、全然愛想のない男だったのに」
「この子とウィリアム様がセットだと、もっと可愛いのよ?」
「えっ、見たい見たい! 私もここに通おうかしら?」

 ちなみに、リサが見た全然愛想のない男というのは、おそらくイヴの前に店を切り盛りしていた兄オリバーだろう。
 兄に愛想がないのは事実なので、特に反論もないイヴが出来上がったブレンドコーヒーを差し出すと、それを受け取ったヴェロニカがぱっと顔を輝かせた。