「私が、考えもせずに伝言を承ってしまったばっかりに……お二人に不快な思いをさせて、申し訳ありませんでした」
「「えっ……」」

 これに驚いたのは火花を散らしていた侍女達だ。
 自分達よりも明らかに年下の女の子がしょんぼりと、しかも謂れのない罪の意識に苛まれているのを見て平気でいられるほど無情ではない。
 イヴのつむじを見下ろして、彼女達はとたんにあわあわとし始めた。

「いやいやいや! 全然、イヴちゃんのせいじゃないわよ!?」
「そ、そうよ、あなたが謝ることなんてないわ! むしろ、巻き込んじゃったこと、こっちが謝らないといけないのに!」

 二人してイヴの頭を上げさせようと躍起になっているうちに、冷静さを取り戻したのだろう。
 しかも、ここが王宮一階大階段脇──つまりは人通りの多い場所だということにもようやく思い至って、ばつが悪そうな顔になった。
 リサとヴェロニカはそんな互いの顔を見て、ついには苦笑いを浮かべる。

「なんだか、ばかみたい……私、なんであんな浮気男に執着しているのかしら」
「私も、二股男とこれ以上付き合い続けるのなんてごめんだわ」

 イヴは図らずも、女達の愛情が冷める瞬間に立ち会うことになった。
 吹っ切れた女ほど強いものはない。
 ダミアンへの報復を決意した二人は、情報の擦り合わせを始める。
 そんな中、すでに料金が支払われていたヴェロニカのブレンドコーヒーを用意しながら、イヴは到底聞き捨てならない話を耳にすることになった。