「クローディア、君の仕業か!」
「うふふ、バレましたかー。──あっ、お茶目な冗談ですので、キスはしてもらわなくて結構ですよ?」
「当たり前だ、誰がするものか! そもそも、君が私を好きだのキスしてほしいだの、本気で言うわけないだろう!」
「あっらー、心外な。ちゃーんとウィリアム様のことは好きですよ。私達、幼馴染みじゃないですかー。まあ、キスは心底していらないですけどね」

 なんということはない。イヴのセリフは、ただの伝言だったのだ。
 実は昨今、ウィリアムを動揺させるような伝言をイヴに託して彼の反応を楽しむという、悪質極まりない遊びが流行っている。
 主に、クローディア・ロゴスの中でだが。
 ウィリアムともイヴの兄とも幼馴染みのクローディアは、宰相閣下の右腕と謳われる優秀な文官だ。
 緩く波打つ亜麻色の髪を背中に流し、丸い眼鏡をかけた優しげな顔立ちの女性である。
 エリート文官らしくかっちりとした濃紺のジャケットを羽織っているが、その下はふんわりとしたシルエットの白いワンピースだった。
 おっとりとして見えるが、噛み付かんばかりの勢いで怒鳴る王子殿下の前でも平然としている。
 彼女に何を言っても無駄だと思ったらしいウィリアムは、コホンと一つ咳払いをしてから、厳めしい顔を作ってイヴに向き直った。