あれまあ! と横で聞いていた調理師が頬を赤らめたが、手元に視線を落としているイヴは気にせず続けた。

「……と、アイリさん、アンナさん、イザベラさんが」
「な、なんだ、伝言だったのか……ややこしい……」
「あと、エイダさん、エイミさん、カリンさん、コレットさん……」
「……まだ、続くのか?」
「続きます。ニナさん、ヘレンさん、ポーラさん、モニカさん、ローズさん、以上順不同です」
「はあ……」

 前ロートシルト侯爵が、マンチカン伯爵は王宮を訪れれば必ず『カフェ・フォルコ』に寄ると確信して伝言を頼んだのと同様に、毎日欠かさずここを訪れるウィリアムへの伝言をイヴに託す客は多い。
 ただし、アイリ以下十二名の常連客達も、彼がプロポーズに応えてくれると本気で期待しているわけではないだろう。
 殿下、頑張って、となぜか調理師に励まされているウィリアムを、イヴは首を傾げて見上げる。

「続きまして──殿下、今日も顔がいい! とアニーさん、ヴェロニカさん、ケイトさん、ノラさん……」
「……」
「きゃー、殿下! 笑顔くださーい! とエリカさん、ミーナさん、メイジーさん、ララさん……」
「……」

 現在二十五歳で独身。
 次期国王の座が約束されている上、銀髪金眼の涼やかな美貌でモテモテの第一王子は、カップを傾けながら遠い目をしてイヴの伝言を聞き流していたが……