「そういえば、ウィリアム様」

 マンチカン伯爵と入れ替わるように、エプロンを着けた中年の女性が『カフェ・フォルコ』を訪れた。
 王宮の食堂で働く熟練の調理師である彼女も、一際忙しくなる夕飯前のコーヒー休憩を日課にしている常連客だ。
 思い出したようにウィリアムを呼んだイヴは、彼女の好みに合わせたブレンドコーヒーを用意しつつ続けた。

「──お慕いしております。結婚してください」
「──っ!?」
 
 カウンターにもたれてカップを傾けていたウィリアムが、思わずコーヒーを吹きかける。