しかし、今回の前ロートシルト侯爵の場合は、マンチカン伯爵が本日王宮を訪れることを把握しており、必ず『カフェ・フォルコ』に立ち寄ると知っていたがために、確信を持って伝言を託したのだろう。
「腕が鳴るねぇ! 大きい鱒を釣ってきて、イヴにご馳走するにゃ!」
「はい。楽しみにしていますね」
うんざり顔の孫と肩を組み、マンチカン伯爵はスキップでもしそうなくらいご機嫌になってようやく帰途についた。
そうして、彼らが王宮の玄関を潜るのを見届けてから、ウィリアムが密かにため息を吐き出す。
「思ったより、元気そうだったな」
「はい……でも、最初いらした時は、おヒゲが少ししょんぼりなさっていました……」
御年五百歳のマンチカン伯爵──彼は一月前、五十年連れ添った十人目の妻を亡くしたばかりだった。
イヴはそっと唇を噛み締めて、空になったカップに視線を落とす。
喪が明けて初めて登城したこの日、『カフェ・フォルコ』でマンチカン伯爵が注文したカフェオレは、彼の亡き妻がいつも好んで飲んでいたものだった。
「腕が鳴るねぇ! 大きい鱒を釣ってきて、イヴにご馳走するにゃ!」
「はい。楽しみにしていますね」
うんざり顔の孫と肩を組み、マンチカン伯爵はスキップでもしそうなくらいご機嫌になってようやく帰途についた。
そうして、彼らが王宮の玄関を潜るのを見届けてから、ウィリアムが密かにため息を吐き出す。
「思ったより、元気そうだったな」
「はい……でも、最初いらした時は、おヒゲが少ししょんぼりなさっていました……」
御年五百歳のマンチカン伯爵──彼は一月前、五十年連れ添った十人目の妻を亡くしたばかりだった。
イヴはそっと唇を噛み締めて、空になったカップに視線を落とす。
喪が明けて初めて登城したこの日、『カフェ・フォルコ』でマンチカン伯爵が注文したカフェオレは、彼の亡き妻がいつも好んで飲んでいたものだった。