『げっへへへへ……いやらしい男じゃなぁ。あれほど濃密な悪意で満たされている人間も珍しいぞ』
「あなたの笑い方も、相当いやらしいけど……ねえ、あの人の悪意、全部食べちゃってよ。もう、メルさんに嫌なこと言わないように」
『いーやじゃ。我はグルメなネコちゃんじゃからな。あのおっさんは脂っぽすぎて、見ているだけで胸焼けがするわい』
「何、それ……」

 そんな中、一匹の子ネコが私の腕から飛び下りて駆け出した。
 傍観のかまえになっていたネコが、とたんに慌て出す。

『こっ、こらあ! どこへ行くんじゃあいっ!』
「あの子、メルさんのところに……」
『おい、珠子! ぼーっとしとらんで、きょうだいを止めんか! おねーちゃんじゃろ!』
「えっ、でも……メルさんは、私達を隠したかったみたいだし」

 そうこうしているうちに、たたたーっとメルさんの足下まで走っていった子ネコが、白いズボンに包まれた彼女の足をよじ登り始めた。
 それに気づいて俄然ソワソワし始めたのは、ヒバート男爵だ。