半年前に私の後頭部にぶち当たるまでは、真っ白くてまん丸い、それこそ毛玉みたいな姿をしていたという。
 その正体は、異なる世界間を移動する能力を持つ、謎多き異世界生物だった。
 たまたまこれにぶつかった私は、否応なしに異世界転移に巻き込まれてしまったのである。

『当初は余計なのがくっついてきおったと思ったが……げっへっへっ、珠子め、なかなかどうして役に立つではないか! 褒めてつかわすぞ!』

 にゃあんにゃあん、という猫撫で声に対し、副音声があまりにもひどい。
 子ネコ達のミーミーという声にそれがないのだけが救いだった。
 とはいえこちらも、実際は猫の子供ではなく、この半年の間にネコの毛玉を元にして生まれた分身である。

『何より、我がこの姿を手に入れられたのは僥倖じゃった。珠子の中にあった〝猫〟〝かわいい〟〝尊い〟という概念のおかげじゃなあ。おもしろいほど簡単に人間どもが陥落しよるわ』

 そう言ってほくそ笑んだネコが、さっきまで自分を抱っこしていた男性が顔を近づけてきたのを、ふさふさのしっぽでビンタした。
 ネコの下僕にとってはご褒美でしかない。
 図らずも一緒に異世界へ渡ったことで、私とネコはお互いの影響を受けた。
 私の中にあった猫の概念があちらの姿形を変化させたように、私も髪が白くなったり、ネコの言葉が理解できるようになったりという変化に見舞われている。
 しかも……